2008年11月21日(金)
おや、奥さん。
本日も嬉野でございますがね。
札幌地方、昨日雪が積もったでしょう。
だもんで寒くてさ、
今年の春先に仕舞ったダウンジャケットをね、
引っ張り出して着てみたらあんた、
ポケットから二千円出てきて、おらぁ昨日は喜んだね。
いやまぁ、なんも儲けちゃいないんだろうけどね、
だろうけどさ、
でも、そこは素朴に、えらく儲かった気がしたのさ。
バカだねぇ人間てなぁね。
でも、気分よかったの(笑)。
ということでね、
本日はですよ、
藤やんひとり出張に出ましたものですからね、
本日も私めが書くことになるんでありますよ。
大丈夫ですか奥さん(笑)。
まぁある程度はこの段階で観念してくださいな。
さて、
うちの制作部長に福屋渉(わたる)さんという方がおられましてね。まぁここでもちょくちょく話題にさせてもらっておりますからね、御存知の方も多かろうと思いますし、「激闘!西表島」の寝釣りの晩に、ひとり浮き釣りをしていた声だけの人としても既に有名な方でございます。
この方の御実家が酪農家でね。
福屋制作部長は、小さい頃からたくさんの牛の世話をしていたそうでございますよ。
まぁこのね、ふつう我々、生き物の世話といえば犬猫止まりですが、この方は御実家の家業が酪農ですから、世話といえば牛ということになりましてね、数も100頭くらいいたわけで。
犬猫だって100頭いたら騒ぎになりますから大変なものでございますが、わたるさんのおうちは牛が100頭。
ですが、そこは酪農の家ですから騒ぎにゃなりませんでね、家業になっているわけでございます。
わたるさんによりますとね、牛にもそれぞれ性格というものがあるらしく、100頭いても区別がつくんですよと申されておりましたね。
驚きですけど奥さんね、
酪農家は牛一頭一頭の世話をしますのでね、
エサだって一頭一頭の牛のコンディションに合わせて、その時々に分量も変えて餌場に出すんだそうです。
で、用意された各自の餌場に牛がきちんと行くかといえばそうじゃないそうで。
いえね、そこは人間と一緒で、決められた場所にきちんと行く牛もいるそうですが、中には、分かっているくせに、わざと間違えちゃった振りをして、ちゃっかりと一番エサの多いところへ行ってしまう牛もいるそうですよ。人も牛も一緒なのね。
そうかと思えばさぁ、ぼんやりしてて、テンポが他の牛より遅いもんだからね、いつも量の少ない餌場に追い込まれてしまう牛とかもね、いるそうで。なんだか牛の話で無いようで笑ってしまいそうになるんだけどね。
で、やっぱり、エサの量とか少しも気にせず、というか頭が回らず、なんでも好いから近いところにある餌場で呑気にムシャムシャ食ってるだけのやつとかね、いるそうです。
好いですね。牛それぞの風景というものもね。
そのどれもが可愛いものです。
まぁそういうことで、牛にだって要領の好いのがいたり、要領の悪いのがいたり、無頓着なやつがいたりと、それはまるで人間と変わるところが無いのだそうです。
そうやって日々牛たちを観察しているから、そのうちに、酪農家の子供たちも牛一頭一頭の固体としての性格を把握していくのだそうでございます。
だから牛の顔の違いも分かるようになるし、とうぜん各牛の名前だって自然と覚えるのだそうでございますよ。
まったく聞いてみないと分からんことが多いのが世間というものでございますよ奥さん。ねぇ。
さぁ、
そういう観察も日々行っておりますから、牛への同情や共感、そして反発、それはもういろいろ感じながら、日々の仕事を繰り返す。牛の性格だって日々変わる
ものではないから、あの野郎また間違えたふりして来やがったな、と思いつつも、要領のいい牛の食いっぷりを苦々しく見つめている。
したが奥さん、
そいつがある日、
いつも要領良く真っ先にくるそいつがね、
ある日、どうしたことか、四番手くらいで遅れて出てきたりする。
常ならぬというのはこういうことだね奥さん。
そこで酪農家の頭は事の異変に自然、反応することとなる。
なんかおかしいぞということで、そのいつもは要領の好いその牛を調べてみると、これが奥さん妊娠していることが分かったりするらしいのよ。ねぇ。
面白いねぇ。
でまぁ、そういう観察と発見の繰り返しが酪農家の日常仕事の中にはあるのだと、わたるさんは申されておりましたね。
実に興味深いです。
そのわたるさんに聞きましたの私。
で、結局酪農家の仕事っていうのは、牛の乳を搾って牛乳にして、それを売ってお金に換えて生活する、そういうことになりますか?とね。
したら、わたるさん言いました。
確かにそうですねと。
でも、大雑把に言えばそうであるけども、実際は事業だから、
儲けというものを常に考えなければならない。
つまり単純な話、儲けを多くするためには、まず牛乳の単価を上げるということを考えることが重要になる。
ではどうすれば単価を上げられるかというと、
牛乳の品質を上げる努力をするということになる。
で
は、どうすれば牛乳の品質を上げることが出来るかというと、血統の好い牛同士を掛け合わせれば好いということになるらしく、そうであれば、まず、血統の好
い牛とはどんな牛なのかを調べ研究し、次にその牛がどこにいるのかを調査し、どうすれば手に入るかを調べ、その上で少しでも安い値段で手に入れようとする
ことになるので、自然と交渉術にも長けてくる。
酪農家の仕事って、だから日々の牛の世話が勿論メインだけれど、どうすれば限られた労働力のままで儲けを増やしていくか、これを同時に考えられる人でなければ酪農家で生きていくのは大変になるんですよと、わたるさんは申されておりましたね。
で、そのわたるさんは、結局、家業の酪農は継がず、街へ出てテレビマンになるわけです。
わたるさんは言うのです、
ぼくは、尊敬できる人としか仕事をしたくないんですと、
とにかく、仕事をするなら長くお付き合いの出来る人としたい。
だって、その人と仕事するということは、その人を食わせて行くことだし、その人の後ろにはその人の家族もいるし、その家族だって食わせていくことにつながるのだからと。
私は、わたるさんから、そんな話を聞いて、仕事でつながりを作るということが、その人を食わせていくのだというイメージに無理なく繋がる福屋渉という人の思考回路に軽い眩暈のような驚きを覚えました。
そのわたるさんが、家業の酪農を継がず家を出たのは、悩んだ末のことだったようです。自分がこの家業を継ぐということは、とりもなおさず牛100頭の面倒をみること。
自分に牛100頭の世話を終生続けることが出来るだろうか。
毎日食べさせて、体を拭いてやって、しっかり面倒をみないと牛を死なせることになる。
おそらく、少年時代のわたるさんのイメージの中で、追いすがるような目をわたるさんに寄せたまま、ばたばたと死んでいく牛の姿というものがあったのではないでしょうか。
その脅迫的ともいえる観念に追い詰められながらわたるさんは育って来た。
そして、自分は、牛の世話に自分の人生をささげることが出来るのだろうかと、日常的にぼんやりと、しかしキリキリと悩んでいたのではないでしょうか。
そんなわたるさんの苦悩を知ってか、ある日、弟さんが、家業を継ぐよと言って、わたるさんは、酪農の家をぽっかりと去る事になる。
子育てというものがありますが、
どんな子に育つか、
それは親の預かり知らぬことだと思えてなりません。
たった一人や二人の大人の考えだけで、人は育てられるものではないような気がするのです。もし、そんなことをしてしまえば、その子は、薄っぺらな人間にしかなれないような気がするのです。
人は自分の置かれた環境に追い詰められながら、追い詰められてはその状況を自分なりに乗り越え乗り越えしながら育っていくのではないでしょうか。
そして、追い詰められながら爆発的に考える。
そうしてその時、結果的に脳を鍛えている。
それは必死だからです。
多分そうだなぁと思います。
そうして個性というものは作られていく。
おそらく子供は、親の目の届かないところで育っているのです。
だから、わたるさんの性質というものは、牛と共に作り上げられたものだという気がします。
わたるさんの仕事振りを見ているとそう思えてなりません。
わたるさんは言いました。
自分は、結局、タレントやアーチストのみんなが牛に見えてしまうんだと。死なすわけには行かないと。食わせていかなければと思ってしまうんだと。
だからあの人は、あんなにもタレントやアーチストのみんなに慕われているのだなと、その時、私は俄かに合点が行きました。
付き合う人を生かそうとする。死なすわけにはいかないという脅迫観念が今もわたるさんを育てている。
そして、そのことは、ぼくに同じことをやれと言われても出来ないけれど、わたるさんは無理なく出来る。
それが、育ちというものだと思えるのです。
だからいろんな人がいる。
いろんな環境があるからね。
そしてその人の育ちが、いつどこで、どのように他人の役に立つのか、
それもまた分からない。
ただ、いろんな人がいる方が好い。
そして、なにより、そのことをし続けることに無理が無いというのがなにより好い。
自分の性質に合わないことは長続きはしない。
長続きする方向を自分で見つけて進むのが好い。
出来ることをやる。
出来なかったことは、出来る人が、あとでやってくれれば好い。
子供は親の目の届かない所で爆発的に育っている。
そのことを忘れてはいけないような気が、なんかするのでありますよ。
じゃ、今週はこれにて終わり。
また来週。
解散じゃ!
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(16:31 嬉野)