藤村

10月31日水曜日、藤村であります。
月曜日の夜、遠来から懐かしい人が札幌へやってきました。
カナダ、ユーコンのヨシ、熊谷さんであります。
相変わらず押しが強く、元気で明るい人でありました。
いろいろな話をしました。
ユーコンのほとり、ホワイトホースに住んで12年。
カナダの良いところ、いいかげんなところ、離れてみてわかる日本の良さ、悪さ、中でも興味深かったのが、カナダから見た北海道のこと。
北海道は人がいい。とても親切。
北海道に着いたらほっとした。景色も空気もカナダに似ている。美しい。
でも、決定的に違うところがある。
小さな町に若者がいない。みんな外へ出て行ってしまうんでしょうか。
ホワイトホースは人口2万の小さな町だけど若者が多い。いったん外へ出て行っても町に帰って来る。
なぜ帰って来るのか。
大学へ進学する若者に町は補助金を出す。外の大学で知識を得た学生がやがて就職時期を迎える。役場は町出身の学生の役場への就職を優遇する。
就職口があれば、若者は町に戻ってくる。補助をしてもらった恩義もある。町への愛情も強くなる。
役場に若者が増える。小さな町で役場のステイタスは絶大。役場の若い感覚が町を活性化する。
ホワイトホースの産業ってなんですか?役場以外に就職口はあんの?
観光だけ。町の方針はハッキリしてます。だから田舎なのにシャレたお店もたくさんあるんですよ。北海道にも多いですよね。小樽なんかにもたくさんありました。でも、北海道の町の人に、この町はなにをやってるんですかって聞くと、あんまりハッキリしない・・・。
日本の場合、それはほとんど個人レベルだから。小樽のおしゃれなバーも、郊外のファームレストランも個人レベル。すばらしい感性を持った人間による個人レベルの表現。
いつしか日本の役場は、ステイタスを失ってしまった。本来、町で一番知識を持ち、感性豊かな若者たちが役場に就職し、町の将来を設計すべきなのに、今の日本で公務員は、ムダ使い、非効率の元凶としか思われてない。田舎に帰って公務員になりたい若者なんて、悲しいかなほとんどいないんじゃないですか、給料も少ないし。
おかしいですね。
おかしいです。
でも、あの、あの旅はほんとにおもしろかったですね。
あはははは!
わたし、あんっなに笑った1週間なんて人生の中でないですもん。
あはははは!そう?
そうですよ。懐かしい・・・
熊谷さんは、日本に帰りたいとか、ないんですか?
ないです。だって、ユーコンにいるから、わたしの存在価値があるんですから。日本の中でできることはわからないけど、ユーコンでなら、わたしにできることがある。
迷いがないねぇ。
またユーコンにいらしてくださいよ。
そうだね。
ほんっと、サイッコーにいいですから!
そうだねぇ。
ほんとですよ!サイッコーですから!
うーん、相変わらず押しが強いねぇ。
あの大自然に囲まれたユーコン
蚊だけはたっぷりいるユーコン
時間もたっぷりあるユーコン
それ以外、なにもないユーコン
・・・まぁ、行かないこともないと思います。
そのうち行くこともあるかもしれません。
可能性はゼロじゃないです。
と、いうことを言っておきますよ。
ミスター。
(15:48 藤村)

嬉野

2007年10月26日(金)
お勤めのみなさん。
本日もお仕事、終わりましたでござんしょうか?
今日も御無事でなにより。
御無事でなくとも、そこはなんとか乗り切って。
奥様方も、無病息災でありましたでしょうか。
そして、お子たち。
お子たちも、健やかでありましょうか。
傷ついちゃったことでもありましたでしょうか。
なんとしてでも乗り切っていただきたいものでありますよ。
嬉野でございます。
さて、今朝のことだすが。
うちの奥さんが、ファックスの巻紙を切り取っていましたのさ。
なんだか、使わなくなって中途半端に残ったファックス用紙だったのでしょうねぇ。
たいした紙の量ではありませんでしたからね。
つまり、余ったファックス用紙を再利用しようとね。
なんでもね、
メモ用紙にするのだということでね、
サイズを決めてね、
定規を使って、
カッターで切りそろえてね、
熱心にパンチ穴を開けていましたよ。
で、ひとしきり紙を切りそろえることに熱中した後にね、
巻き芯だけが、ころりと残りましてね。
ほら、あのダンボール紙で巻き締めたように固い紙の芯ですよ。
あれが、ころりとテーブルの上に残りましてね。
うちの奥さん、それをじっと見てね、
「これ。何かに利用できないのかしら」。と、
恨めしそうに言うのでしたよ。
私もそれを聞きましてね、
口には出しませんでしたがね、
「わかる」。
と、心の中で同意しましたね。
私もかねてより、あの巻き芯の出来には舌を巻いておりました。
触ると実に頑丈でございましょう。
実際、なかなか容易に折れそうにない堅固な穴あきの棒に仕上がっているのですよ。
捨てたくない。
手元に置いておきたい。
ファックス用紙の巻き芯ごときにフェバリットを感じさせることができる日本の技術力。
すばらしい!
あんな、さりげないところにも、高い技術力を見せ付ける、
日本の工業力の凄さを感じますよね。
あのフニャフニャしない、ビシッとした固さの出来具合に、
製品の強い自己主張を感じてね、声なき声がするのです。
「オレを捨てていいのか」。と、
なんだか、巻き芯が言っているような気がするのですね。
「こんなに出来の好いオレを、捨てていいのか」。
「それでいいのか。日本!」。と、
だもんだから、つい、奥さんの口から言葉が漏れ出てしまうのでしょうね。
「これ、なにかに利用できないかしら!」と。
こうして、巻き芯と、うちの奥さんは、しばし見詰め合うのです。
巻き芯は、期待のこもったまなざしでうちの奥さんの瞳を見上げますね。
しかしね。
使い道がない。思いつかない。
と、なりますとね、
女の方の、割り切りは、お早いようでね。
あっさり巻き芯をゴミ箱に捨てましたね。
かくして巻き芯はね、
「これでいいのか。日本!」と、
我が家のゴミ箱の中で叫びながらね。
来週の燃えるゴミの収集日までね。
ブー垂れることになったわけでありますよ。
と、いうことでね奥さん。
つまんない話で悪かったわね。
でも、また来週も、
これに懲りずに、
きっと来るのよー!
では解散!
追伸
たくさんの方が「茄子スーツケースの渡り鳥」を御覧になったんですねぇ。掲示板の書き込みに、その記事が多ございましたよ。
他にも、掲示板の記事、ちゃんと読ませていただいておりますですよ。ご心配なくね。
(18:23 嬉野)

嬉野

2007年10月24日(水)
嬉野です。
今日は札幌地方快晴でしたよ。
おまけに、今ちょうど街は紅葉してるのよ奥さん。
紅い葉、黄色い葉に日が当たってね、燃える秋なわけさ。
ロマンチックなのよ。
来月は、紅葉も終わってね、寒くなってね、雪もまだだしね。
観るもんないからね。札幌ツアーは安いよ。
さぁ、そんな今日。
大泉先生、声で主演!
我々ディレクター陣二人も声で出演!
させていただきましたところの!
高坂希太郎監督のアニメ作品!
「茄子・スーツケースの渡り鳥」が!
DVDとなりまして本日より発売でございます!
自転車レースのアニメですのよ奥さん。
自転車レースのごちゃごちゃしたところを、どーやって一枚一枚絵にして行ったんだろうと思うとね、気が遠くなるね。
レースのシーンの迫力は凄いよ。
さて、主役のぺぺに大泉さん。
チームの監督に藤やん。
監督である藤やんが運転する車の後部シートで常に控えてるメカニックに私。
藤やんは、もろわかりの声で映画の冒頭から絶叫出演。
セリフ多数。
嬉野さんは、力む、転ぶ、叫ぶ、といった、セリフ以前の声を熱演。
「藤村さん、声優なみのセリフでしたねぇ!」
「嬉野さん、どこでしゃべってました?」
みたいなことですよ。
興味のある方は、ぜひ御覧下さいませ(笑)。
じゃ、奥さん。また明日!
(16:46 嬉野)

藤村

10月23日火曜日。藤村でございます。
現在、「素晴らしい世界」のドラマを超特急で編集中であります。
本日も多忙。
すんません、愛想なしで!
(14:45 藤村)

嬉野

2007年10月18日(木)
藤村先生のミニドラマも、本日で撮り終えるとのことです。
したが札幌地方、本日早朝より濃霧。
視界わずかに200メートル。
朝から晴れてはいたんですが、天気晴朗なれど霧深し。
あれでは、霧が晴れるまで撮影できなかったのではと、チト心配。
秋深き北国の日は、つるべ落としなのよ奥さん。
朝は8時より撮影開始でね。
午後は3時頃までが日の具合としては限界だそうでございますよ。
ですので、昨日は夕方4時過ぎには撮影隊の皆はHTBに戻ってまいりましたが、本日はいかがにあいなりましょうかねぇ。
撮りこぼせば、また明日も、お出かけになりましょう。
撮影は快調とのことです。
ただ、昨日は「モーレツに寒かったぞ」と、関係者全員、体の芯まで冷えましたのか、顔面蒼白の体で帰ってまいりました。
チラッと撮影済みの映像を局で覗き見しましたが。
音尾さんが、恐るべきメイクをされたお顔で、バスの窓いっぱいに、へばりついておられました。
わが社には、カリスマは、スタイリストだけにあらず、メイクにもカリスマがおるのであります、オソロシヤ。
じゃ、今日もこの辺で終わりますよ奥さん。
また明日も、きっと来るのよー!
すんませんね、愛想なしで(笑)。
(16:29 嬉野)

嬉野

2007年10月17日(水)
本日、藤村先生、ミニドラマのロケ。
やっぱり晴れました。いまやバカ晴れ。
天気予報ハズレ。
秋、真っ盛り。
じゃ、また明日(笑)。
(15:02 嬉野)

藤村

10月16日火曜日。藤村であります。
本日、ピンチヒッターで担当している「素晴らしい世界」のドラマコーナーの衣装合わせと本読みがございました。
何度も笑った。おもしろくなりそうです。
音尾先生はやはりいい。
明日から撮影。
しかし天気予報は雨。
まぁ予報はハズレてバンバン晴れるからいいけども、だ。
明日は早朝からなので本日は早じまい。
諸君。また!
(17:31 藤村)

藤村

10月12日金曜日。藤村でございます。
わたくしは現在、DVD第10弾の編集作業を中断して、他番組の仕事に借り出されております。
北海道内で放送されております、やまだひさしさん、離目音尾先生司会の深夜番組「素晴らしい世界」。その中のドラマのコーナーの来月分を、私が作ることになったのでございます。
来年は大型ドラマに挑むことだし、その中で試してみたい撮影方法もあるし、その予行演習として、ということでお引き受けした次第。
「素晴らしい世界」のドラマコーナーは、1話5分×4週分(1ヶ月)で完結というショートドラマ。
主演は常に離目音尾先生。共演者には、これまで神木龍之介くんをお呼びするなどたかがローカル深夜のミニドラマとしては意外と豪華。
その来月分の作品を来週、3日間の予定で撮影することになっております。
お話の内容はというと、とある田舎道にあるバス亭が舞台。
そこにたたずむ初対面の男女ふたり。
彼らは、ある理由からそこにとり残されてしまった・・・という、バス亭だけで展開するワンシチュエーションドラマ。
タイトルは「残された2人」。
もう撮影前から、ずいぶん言っちゃってるけど、まぁたかがローカル深夜のミニドラマだからいいだろう。
最初に脚本が上がった段階では、音尾先生演ずる主演の男は気弱そうなどこにでもいる等身大の30代の男。ただ離目先生の魅力というのは、その確かな演技力とともに存分に存在感を主張するその類まれなる奇天烈な顔面。
あの顔面をもってして等身大の男などもったいない。
男のキャラクターを多少、変人にしてほしいと注文したのであります。
しかしまぁ、話の筋はすでに出来上がってるわけだから、そこをいきなり「主役を変人に」と言ったって、基本的なストーリーは変えられない。もともと変人の話ではないのだ。
ならば「見栄えだけでも変わった男に」ということで、奇人変人のスタイリングを得意とするカリスマスタイリスト小松氏を昨日、お呼びしたのであります。
こちらのおおまかな要望を伝えると、カリスマはその場ですべてのスタイリングを決定し、メモを片手に「じゃもうわたし買いに行ってくる!」などと、颯爽と「登山用品店」へと向かいました。どんな格好で登場するのかお楽しみ。
このドラマ。舞台は「田舎道にあるバス亭」ということで先週、札幌近郊のそれらしいロケ地を探しに出かけておりました。
北広島、恵庭、千歳、早来、長沼・・・このあたりは、田園風景あり、山あり川あり、牧場もありということで、「どこだって撮れるだろう」という場所。しかし、いざ探してみると交通量が多かったり、飛行機の騒音があったりで、なかなか決まらない。
走り回った挙句に「おぉ?ここ意外といいんじゃないの?」と、決めたロケ地は、なんと会社から15分の札幌の町の中。
「田舎道にあるバス亭」を、会社から15分の町中に作り上げる。
もう撮影前からこんなネタバラシもしちゃってるけど、まぁいいや、たかがローカルのミニドラマ、こんな前フリがあったっていいだろう。
果たしてあのロケ地が見事「田舎」に見えるのか!
主役のキャラクターにしても、ロケ地にしても、どうなるのか、撮影当日まで楽しみであります。
作ってる側からして、どうなるかわからない楽しさ。
ドラマというものは、脚本やカット割りというちゃんとしたレールがあり、そこに沿って、想定外のものは極力排除する。それがスタッフの使命であり、そのための撮影システムも構築されています。
だから視聴者はバランスの取れたドラマを、何も考えずに見ることができる。
でも、いつしかドラマを見なくなってしまったのはなぜだろう。
あとに残らなくなったのはなぜだろう。
もしかしたらそこに、妙な人間くささや、アンバランスさ、必死さ、のようなものが、見て取れなくなったからじゃないんだろうか。
いや、システムが発達したってドラマの現場にはどこも葛藤や苦労はあり、みんな必死にやっている。
でも作り手は最終的なバランス、言い換えれば「わかりやすさ」のようなものを、すべての念頭に置いて作品を仕上げていないだろうか。
「わかりやすさ」という親切心は、時に、「いいよ!わかってるよ」という反感を生む。
逆にわかりにくさ、言い換えれば「アンバランスさ」や「危うさ」は、見る者の注意を引き、だから理解しようとつとめる。客はバカじゃない。
でも、そういう意味での危うさのようなものが、今のドラマには感じなくなってしまった、ということではないだろうか。
幸いにも、というか、たかがローカルのドラマでは、どうがんばったって最終的にバランスの取れたものなんかできやしない。危うさやもろさを隠し切れない。「バランスが取れてるように見えるもの」は作れるだろうけど、そんな浅はかなものは、視聴者にすぐ見抜かれる。
だったらいさぎよく、アンバランスでいいではないか。
どうなるか楽しみだ、ぐらいの危うさでいいではないか。
そう思えばたぶん、ローカルでも無理なくドラマは作れると思うんだけど。
ドラマというのは手間と金がかかります。でもそれに見合う視聴率はなかなか取れない。同じ1時間なら手間のかからない情報番組やバラエティーの方が費用対効果はいい。
ではなぜドラマを作るのか?
一言で言うなら、それは「テレビ局の最後の意地」、じゃないでしょうか。テレビがクリエイティブであるための、最後の意地。
これを捨てたらテレビは、特にローカル局は、数字と効率だけを追い求める電波塔になっちゃうような気がする。
でも北海道では、NHKさんも、老舗のHBCさんも、uhbさんも、このところ単発ドラマを作っております。
他局ながら、北海道のためにも、お互い意地を張っていきましょうと、思うのであります。
ささ、いろんなこと言ったけど、
結局、今一番の気がかりは、来週の天気。
雨降ったらアウトだな。
オール外ロケだからな。
考えるのやめよ。晴れるに決まってるから。
じゃぁみなさん、よい終末を!(久しぶりに言った)
(18:23 藤村)

嬉野

2007年10月11日(木)
嬉野であります。
今日の昼下がりにね。
カリスマ・スタイリストの小松さんがHTBに来られましてね。
いやぁ、相変わらず活発な様子でね。
幾つになられましてもオーラがありますね。カリスマは。
ちょっと前から見かけねぇなぁと思っておりましたが。
カリスマは、実家の方にしばらくお帰りだったらしくてね。
なるほど、それで久しく会えなかったんですな。
実はカリスマの実家には、犬がおりましてね。
今年6歳なんだそうですな。
なんでもカリスマの母ちゃんが飼ってる犬だそうでね。
可愛いのだそうですよ。駄犬だそうですがね。
この頃はあれなんですね奥さん。
携帯でも動画というのを撮れるんですね。
「うれしーさぁ、アタシが撮ったの見る?」
そう言ってね。
カリスマが実家でお撮りになって来たね。
実家の駄犬の動画を見せようとなさるわけですよ。
嬉しそうに。
私にね。
私も書き物をしてはおりましたが、
そこはまぁ、言ってもカリスマですから、
むげにはできませんでね。
「あら。小松さん家の犬かい?」
「そうなの。可愛いの」
「そら可愛いだろうけどね」
「見るでしょ?」
「いや。見るけどさ」
「可愛いの。見せてあげるから」
「そうかい?」
ということで見ましたね。その動画。
ところが奥さん。
あの女は、あなどれませんよ。
カリスマに見せられた動画。あれは傑作です。
私、驚嘆しました。
動画に映っていたのはね。
どこにでもいそうな、
でもこの頃はパッタリ見なくなった、
情けない顔した駄犬でしたよ。
全身茶色でね、
鼻周りが黒くてね、
シェパードが堕落したような顔の駄犬でしたね。
実に情けない顔でしたよ。
で、その見せられた動画の中身というのがね。
最初から最後まで、そのカリスマの実家の駄犬が映ってるだけでね。
その駄犬の情けない顔に、被せるようにカリスマの声がする。
それだけの構成なの。
ようするに実家で酒呑んでね。
酔っ払って好い気分になった女がね。
夜中にヒマだったもんだからね。
てめぇんちの飼い犬に携帯向けてね、
からんでるだけの動画なのよ。
しかしながらこれが秀作。
笑ってしまった。
ぐだぐだ、ぐだぐだとね、酔っ払った女が、犬に嫌がらせし続けるだけの内容なんですよ。
ですが私は、食い入るように見ましたよ。
そんで、涙流して笑いましたよ。
バカバカしくて。
だって、この女がねぇ、くどいの(笑)。
犬が気の毒なくらい。
いやぁ、実にね。
酔っ払って寝る前に、くだ巻いているだけの価値の無い女とね。
その女が飼っている価値の無い犬の間にね。
ぐだぐだと繰り広げられるだけのどうしようもない時間の中にね。
怖ろしいほどの価値が生まれているのよ、奥さん。
その事実に、カリスマはまだ気づいていないね。
カリスマはそのことに気づかず、
へらへら笑いながら、
油断しきった後姿で帰って行きましたけどね。
あれは私ね奥さん。金払ってでも見たいものだったよ。
あの女は、おそらく天才だと思うよ。
あの女の人格がもう娯楽番組なのだと思うから。
カリスマ・スタイリスト小松さん。
多才です。
なんでしょう、あの方。金には縁が遠そうですが。
目が離せません。
じゃ、また明日。
すんませんね。意味不明で。
(18:40 嬉野)

嬉野

2007年10月10日(水)
嬉野であります。
なんでしょう、うちの奥さんと結婚する直前の頃にね。
だからあれだ、もう19年くらい前の頃にね。
だからぼくもあれですよ、29歳とかでしたね、奥さん。
嬉野さんも20代。今はもう48歳。
ねぇ。どうなるんだろう今後のわたし。
そんな昔の、とある秋の暖かい昼下がりにね。
だからまぁ、ちょうど19年前の今頃ですよ。
ぼくが、仕事だったか休みだったかは忘れたけど、新宿駅の総武線のホームへ向かって階段を上がろうとした時にね。
ひとりのお母さんに呼び止められましてね。
あのお母さん、あの時、38歳くらいだったろうか?
いや、もっと若かったかな?
まぁいいね。
とにかく呼び止められたから振り返るとね、そのお母さんは、女の子連れでね。
女の子は車椅子に座っていてね。
その子、12歳くらいかなって思ったね。
ぼくを呼び止めたお母さんは、
「娘の車椅子をホームまで上げていただけませんか」
とぼくに言うわけです。
「あぁ、じゃぁお母さん、もう少し助っ人を探さないと二人で上まではきっと無理ですよ」とお母さんの体力を心配して言いましたらね、
「いえ、車椅子だけでいいんです、この子は自分でホームまで上がれますから」。
ということだったのです。
「あら、それならお安い御用ですよ」
と言いますとね、それを聞いたお母さんのホッとした笑顔の奥の車椅子の上にもね、ホッとして笑顔になっている女の子が見えましたよ。
女の子は、お母さんに助けられながら車椅子をおりてね、総武線のホーム目指して階段をゆっくりゆっくり自分だけの力で上がって行きました。
もちろん階段の手すりにすがってね。
ぼくは、女の子が降りて軽くなった車椅子を抱えてね、そのまま階段を上がりましたよ。
ぼくの仕事量は、それだけ。
女の子は手すりにすがりながら、ホームまで、ゆっくりゆっくり上がって来て、ホームでまたお母さんに助けられながら車椅子に座りました。
しばらくすると轟音と共に黄色い電車がホームに入って来てね、母娘は、それに乗ってするすると千葉方面へと去って行きましたですね。
その時のことを未だにね、ぼくは覚えていて、忘れられない。
で、ここに書いたわけですが、
まぁ、良い事をしたんだぜという自慢話じゃないですよ。
ただ忘れられない思い出になっているのよ奥さん。
あの日。
ぼくが、総武線のホームに上がろうとした時。
お母さんから呼び止められて。
娘の車椅子をホームまで上げていただけませか?
と言われてね。
好いですよって引き受けた時に。
見せてくれたその女の子の笑顔がね。
ずっと忘れられないのよ奥さん。
いきなりホッとしたような。
胸のつかえがスッと晴れたような。
なんかそんな好い笑顔だったから。
最初ね。
呼び止められて。
お母さんがお願いしますってぼくに言ってる時。
女の子の表情は、ほんの少し曇っていたから。
曇った顔で斜にぼくを見ていたからね。
それはそうだよね。
女の子には全部見えるんだよね。
頼んでいるお母さんの後姿の向こうに。
お母さんから頼まれている通りすがりの男の表情が。
ずっと見えているんだもの。
その女の子にはね。
お母さんの声は聞こえないけど。
お母さんの顔を見ていた男の目が。
次に自分に注がれる。
値踏みするようにチラッと自分を見おろす。
その時の男の表情がまる見えに見えるんだもの。
少しでも嫌な顔されたら心が痛むだろうと思います。
で、ホームの上で別れるまで。
その子の笑顔がずっと続いていたから。
あぁ、あの子。
ひょっとして嬉しかったのかなと、ぼくには思えてね。
もしかしたら、あのまま家に帰りつくまで、あの女の子は喜んでくれるのかなぁと思ったらね。
なんだか忘れられなくなりました。
ぼくは、その日一日、温かい気持ちが続いてね。
そして20年近く経っても思い出すのです。
好い思い出です、ぼくにとって。
車椅子をホームまで上げるという簡単なことで。
他人がこんなに喜んでくれるというのが。
ぼくには、眩しくてね。
そうやって喜んでくれた女の子の心根が眩しくてね。
いつまでも、あの日の事が心に残ったままなのですよ。
それでこの年になっても、あの日のことを覚えてる。
つまり忘れたくないから、あれから折に触れ、記憶を反芻してきたということなのでしょうね。
だから、あの日の事は、多分死ぬ時まで忘れない。
不思議なことです。
あの女の子は、もうとうに忘れたろうにね。
もうしばらく続くだろうぼくの人生の中で。
戻れることなら戻ってみたいひと時のひとつが。
あの日の総武線の階段でのひと時なのです。
すんませんね。
それだけのことなんです。
怒らんでください。
じゃ、奥さん。
お気を悪くされませんで、また明日お会いしましょう。
解散!
(17:56 嬉野)