2009年6月9日(火)

嬉野

2009年6月9日(火)

嬉野です。

今日の一件。

●小さな疑問から生じる悩み●

嬉野先生はどうかんじますか?
赤ちゃんが泣いて生まれてくる訳。
笑って生まれてきたってイイのに。

○嬉野さんの気休め回答○
あぁ、そうだね。
おかあさんやおとうさんと対面できるのにね。
おとうさんもおかあさんも、
生まれてくる子のことを待っているのに、
泣く事ないよね。

でもまぁ、泣きながら生まれてくるんだから、
生まれてくる子供には、泣きたい理由があるんだろうさ。

そのことは事実として、
押さえてあげたほうが好いかもしれないね。
きみや、ぼくらはもう覚えてないけどさ。
きっと泣きたい気持だったんだろうよ。

転校生だって、みんな不安だしね。
転勤していくお父さんだってきっと不安だろう。

だってさ。
越していった先が今より好いとこかどうかなんて、
最初は分からんからね。

それでも越さなきゃならないから転向したり、転勤したり。
ついてくおかあさんだって、知らない土地で、知り合いもいないし、土地勘もない。心細い事ばかりだよ。

前の土地ではいろいろなことが上手くいってたけど、
新しい土地でも上手くいくだろうか。

不慣れな環境へ出て行く不安ていうのは、
生まれる瞬間にもう経験していたことだったんだね。

その不安を知る事からぼくらの人生は始まっていたんだなぁ。

それでも皆、転勤したり、転向したり、引っ越したり。
違う仕事に就いたりしなくちゃならない時がある。

子供は、どうしておかあさんの体の中から、
外の世界へ出てくるのだろうね。

おかあさんのお腹の中は居心地が良さそうだよね。
なのにどうしてこの世界に出てくるのだろう。

それは多分、子供の意思ではなくて、
おかあさんのお腹の中が、だんだん変化して、
いつまでもは、いられない状態になるからだろうね。

お腹の中の子供は、ずっといたいと思っているかもしれない。
でも時期が来たら、いられなくなる。
おかさんの体が、子供を外に出してしまうんだね。

時期が来たら、その時、ぼくらは、
出て行かなければいけない、そんな生き物なんだろうね。

昔、赤瀬川源平さんが、なにかに書いてたよ。

あれも「泣く」ということに関するお話だったなぁ。

赤瀬川さんは、ある夏の夕方、自転車に乗って多摩川の土手あたりを走ってるんだね。そしたら小さな羽虫が赤瀬川さんの目に入っちゃうんだ。なんだか、意思を持って赤瀬川さんの目に飛び込んでくるかのように羽虫が目に入るんだ。

あれは嫌なものでね。
羽虫が入った目からは、涙が出ちゃう。

涙をこぼしながら、赤瀬川さんは、なにか一生懸命考えるんだ。

そのうち、目からこぼれた涙が、自分の口に入るんだね。
すると、しょっぱい。

「そういえば」と、
その時、赤瀬川さんは、思い出すんだ。

人間の成分のほとんどは海水だって聞いたことがある、って。

生物は初め、みんな海で生まれた。
でも、いくつかの生き物が、その海を捨てて、
陸に上がって来た。
それが、自分たち人類の、ずっとずっと前の祖先で。
陸に上がって来たぼくらの祖先は、その時、古代の海水を自分の身体に取り込んで来たんだって、そんなことをどっかで聞いたのを思い出すんだね。

その時、赤瀬川さんは、もうひとつのことを思い出すんだ。

「そういえば」
「泣く」という漢字は、
(さんずい)偏に(立つ)と書く、って。

つまり、水際に立つ。

最初の生き物が、海から陸に上がった時。
その時も、その生き物は波打ち際に立ったろうか。

そうやって赤瀬川さんの頭の中で、古代の海中から陸に上がって来た、ひとつの生命体の姿が「泣く」という漢字になって頭の中でシンクロするんだね。

そして赤瀬川さんは、思うんだ。

生き物が、住み慣れた海を捨てて、陸に上がってきた瞬間。
つまり、それは、自分たち人類の祖先が、陸地に最初の一歩を記した輝かしい記念すべき決定的な瞬間のはずなのに、
それが、「泣く」というイメージと重なってしまうのか、って。

そして、赤瀬川さんは、続けてもうひとつ、
「涙」という漢字を思い出すんだ。

「涙」という漢字は、(さんずい)偏に(戻る)と書く。

水に戻る。→海に戻る。

赤瀬川さんは思うんだ。
つまり、ぼくらの祖先は、
住み慣れた海を捨て、陸に上がった時、「泣き」。
泣いて「涙」を流しながら、海に戻っているのだと。

そんなことを考えて、愕然とするんだね。

それを読んだのはもう30年近く前だったけれど、

くは、赤瀬川源平さんて人は、すごいなぁと思ってしまってね。その赤瀬川さんが思いついてしまったイメージが、その時のぼくには、まるでぼくらの生きる定
めででもあるかのように、それを赤瀬川さんが発見したかのように思えてね、しばらくどきどきして、いまだにこうして忘れてないものね。

だから、生まれてくる赤ん坊は、
みんな自分たち生物の定めを、この世に生み出される時、
なぞって出て来るのかもしれないね。

だからぼくらは、この世に第一歩を進めた時、泣き、
そして、涙を流しながら、もう一度、住み慣れた海に戻っていく。

生き物にとって、生きる事はずっと苦しいことだったのではないのかな。
だから泣くことから始めるしかなかった。
でも、泣けば。
涙がこぼれて。
ほんの束の間だけれど、
ぼくらは懐かしい故郷である古代の海に戻ることができる。

その浄化作用で自分を慰めながら、ぼくらは、どこまでも生きていかなければならない。
そうなんだろうなぁと、ぼんやり思います。

それが今日の、気休め。

いやぁ、昨日、軽々しく、悩み募集したらね。
恐れ入りましたという数の書き込みが掲示板に寄せましてね。
だって、掲示板の全コマが「悩み募集係り宛」になっててさぁ。
いったい何百続くのか。
とにかく言いだしっぺとしては、全部、読ませてもらってますから。
なんで、もうこの辺で、勘弁してもらっていいよ。

いや。
悩みとか、愚痴とかさぁ。
いいよね。
オラァなんかそんなことを思うよ。
書きな、書きな。

書いてるうちに「スッキリしましたぁ!」なんて人もいっぱいいたしね、「書こうとしたら、たいした悩みでもないかと思えて」、これまた「スッキリ」した人もいたみたいだし。

とにかく、読むから。

それくらい生きていくのは大変なんだよ。

だから、大変な人生になってもね。
あぁ、生きるってそういえば、古代の昔から大変なんだよなって、どっかで思い直してね、で、いろん人に優しくしてもらいながらさ、がんばりましょうや皆さん。ねぇ。

人間は、たくさん生きてるんだから。
誰かは他人に優しくても好いじゃないのよ。
とまぁ、オラァそう思うね。

仲良くしようや。
優しくしようや。
誰かが困ってる奴をかばってやれば、
それだけだってそいつは元気になれるよ。

とにかくみなさん。
地球に優しく、環境に優しく、嬉野さんに、やさしく。
ねぇ。
好いじゃないのよ。

じゃ、明日また。
本日はこれにて解散!

ほんとよ奥さん。
解散してくださいね。いつまでもその辺にいないで。
晩御飯の準備とかあるでしょ。
うちは今日は刺身だってさ。

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(18:57 嬉野)