2007年6月26日(火)
2007年6月26日(火)
嬉野です。
ずいぶんなご無沙汰をしておりました。
久しぶりの登場でございます。
みなさんは、お元気でありました?
実は私、昨日ちょっと変なものを見てきました。
「人体の不思議展」というものを見てきたんです。
しかし、なんで私はそんなもの見に行く気になったんでしょう
。
ただ、なんだか不意に、とっても見たくなったのですよ。
そうそう、うちの奥さんが見に行くんだと張り切っていたのが事の起こりでしたよ。
ある日、「人体の不思議展」を見に行くんだとあの人がいうわけです。
「ハァ…」てなもんでしたよ私は。
でもあの人は、「早く行かないと終わっちゃう」とか言うわけです。
本業が鍼灸師の人ですから、人体の構造に関しては、ぼくなんかよりよっぽど知識がある。だからこんなに張り切っているのかしらと思いましたが、なにも人体模型を見に行くことにそんなに張り切らなくてもいいじゃないのよと怪訝に思っていたところへ妻が言うのです。
「あんたも一緒に見に行く?」と、
いきなり聞くもんだから、
「えぇ!オレはいいよ。人体なんてよくわかんないし、だいいち模型だろう」と咄嗟に本音を口走る。
すると妻は「こいつ、なんにも知らねぇ」と言わんばかりの視線を私に送りつつ言ったのです。
「違うわよ。全部本物よ」
「はぁ?」
ぼくは妻の言っている言葉の意味がよく理解できませんでした。
全部本物。本物?
本物ってなんだよ。本物ってどういうことだよ。
模型じゃないってこと?
つまり生きてた人って事?
え?生きてた人の体で標本作ったの?
うぅぅそんなことして良いの…。
生きてた人が死んだ後に標本に…あぁぁよくわからない。
「つまりあの、全部本物の人体…」
「そうなの。あたしも初めはビックリしちゃったの。だって精巧な模型だとばっかり思ってたんだもの。でも行ったら違うって書いてあるのよ。全部ほんものの人の体。ある時点まで生きていた人たちばかりなのよ」
「マジでか…」
「あたしこの前来た時に見に行ったからこれで二回目だけど、とっても好いのよ」。
「好いのか…」。
いったい妻が、何がどんなふうに好いと言いたかったのかは分からないまま、
「そんなら行くか」と、つい言ってしまった私の「そんなら」も、どんなそんならなのか自分でもよく分からないまま、それでも私は「人体の不思議展」を見に行かなければいけないような気持ちになってしまっていたのです。
そして昨日。
夫婦して「人体の不思議展」へ行ったわけです。
「ほら、あれがアキレス腱。かかとのところ、あれ一本でつなげてるでしょう」
「切れやすいわけだよね。一目でわかる」
「でも、一本だけでつなげてるからきっと微妙な調節が利くのよ」
「足の指から足の付け根に向かってそれぞれ伸びてるあのひもは何?神経?腱?なんでこんなにひもがいっぱいあるの?」
「ほら、肘のところゴリッとやるとビリッとするじゃない」
「するする」
「あそこの肘の骨の上を神経が通ってるでしょう」
「ほんとだ、あれじゃぁビリッとくるよね。いやぁ割りと太いひもなんだね、神経ってさぁ」
人体の中には物凄い数のひもや袋がつまっているのです。
内臓にしたってそれはパズルのようで、なるほどそれぞれが最適の形で最適の場所に内臓同士を組み合わせるように置かれているから物凄くコンパクトに体内に納めることが出来る。
そのコンパクトに納まった内蔵を肋骨が包んでいました。
肋骨はきっと折れることで車のバンパーみたいにショックを吸収してそのショックが大切な内臓に届くことを和らげようとしているのでしょう。そういう仕組みを知ると肋骨が折れることをそれほど嘆くことは無いのかもしれないと思ってしまう。
そんなことがよく分かる。
しかし、「人体の不思議展」の異様なところは、よく分かるだけでは終われないところです。
それは目の前のその人体標本が模型などではなく本物なのだという事実が、常に見る者の心の中に強迫観念を巻き起こすところから来るのです。
確かにみんな見る目が変でした。
あの人も、あの人も、あの人も。
みんな日ごろより、ほんの少しだけ鼻の穴が広がっているように見えました。
ふと周囲に目をやると、椅子に座って休憩している人が目立ちました。
展示会場は歩き詰めですから疲れます。でもそれだけではない疲れがありました。
何かが混乱するのです。
とにかくいろんなことを考えてしまうのです。
目の前にある標本が作り物ではないのだという事実が常に切迫したものを突きつけてくるのです。
そして、つくりものでないから、あらゆる造詣に妥協や省略がまったく無い。
だから、人体を造詣した者の仕事量の膨大さ、その途方も無さに圧倒される。
そして見る者はどうしても思ってしまうのです。
「いったい誰が作ったんだ」と。
これって誰が作ったんだろう、と。
結局、思ってしまうのです。
「神様ですよ」。
誰かにそうあっさり言って欲しい気がしました。
神様だということにしてくれたらあっさりこの混乱が解消されそうな気がしたからです。
万能な者が世界も人も作ってくれたのなら思い悩む事はなくなるのですから。
でも、神様で無いなら。
いったい、誰が作ったのでしょう。
この途方も無い仕事量の果てにしかありえない人体という造形物を。
私は咄嗟にアホなことを思いつきました。
細胞以前の、もっともっと原始的なゴミみたいな何かが、ゴミみたいな何かに過ぎなかった何かが、ただただ「ありたい」という一念だけで、その切実な思いだけで、ここまでのものをこつこつと作り上げたのではないかしらと。
名も無い小さな小さなゴミのようなものたちが、寄り集まり寄り集まり、知恵を出し合い、気の遠くなるような根気の果てに作り上げた傑作、それが人体。
なんだ私は人体を見ながら、その仕事振りに、そんな素朴な者の実直さを感じたのです。
結局、人体というものはとてつもない物だと、
私は見ることによって、あっさりそう納得してしまった気でいます。
いやぁ、何が書きたかったんだろうオレは。
多分、ショックでうわ言を言っているのだろうと思うね。
「人体の不思議展」を見終えて外へ出るといつもどおりの平和な日常がありました。
見慣れた街中の賑わいの中に身を置いて、私はほっとしながらも、このぼくら人間が作り上げてきた社会と、先ほどまで熱心に見て回った何者かが作り上げてくれた人体の世界とが、なんだかとても、つながりの薄いものに思えてしまいました。
あれは、どういうことだったんでしょうか。
今でもよく分かりません。
でもね奥さん、見るって凄い事なんだね。
私はそう思いましたよ。
ま、また明日。
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(17:31 嬉野)