2006年10月30日月曜日
2006年10月30日月曜日
嬉野であります。
グッズ店長の手下に、くまくまという名で呼ばれる、まだかろうじて若い女がおります。
青タイツ茶タイツ黄タイツのストラップをデザインしたり、渋谷小祭のポスターのデザインをしたりと実直に好い仕事をしております。
この女が、近々九州へ旅に出るんだと、嬉しそうに何かの席で申すわけでございます。
九州と言えば、私の生まれ故郷、佐賀があるところであります。
どこへ行くのかと聞けば、福岡だというのであります。
それからどこへ行くのかと聞けば、長崎だというのであります。
その後どこへいくのかと聞きますと、それで終わりで札幌へ帰るというのであります。
福岡の博多から長崎へ行くには、JRの長崎本線の特急「しろいかもめ」で行くのが便利でございますね。JR九州の特急は外装も内装もシックで美しく、旅情をかき立ててくれます。
私の生まれ故郷の佐賀というのは、その「しろいかもめ」の走る長崎本線の博多と長崎の丁度中間にあるのです。
通り道であります。
もちろん特急も停車します。
博多から特急で所用35分という近場にございます。
城下町でございます。
佐賀には寄るのかと、くまくまに聞きますと、寄りませんというのであります。
そんな街のことは気にしたこともないという顔で答えるのであります。
私は少年の頃を思いだしました。
その頃世間には、怪獣ブームというものが押し寄せておりまして、東宝ではゴジラシリーズが、大映ではガメラシリーズが、遅れを取った感のあった松竹だってギララとかガッパとかいう怪獣をでっちあげまして、春休み夏休み冬休みのたんびに劇場で公開しておったのであります。
もちろん少年達は、休みに入る前に怪獣映画のことで盛り上がるのを常といたします。
ですがその年の盛り上がりは、いつも以上だったのでございます。
何故か!
それは怪獣が、あろうことか九州上陸を果たすたらしいという地場的話題が盛り込まれておったからであります。
どうやら、あのゴジラが博多の街であばれるらしい。
「博多にゴジラが来るのか!」
少年達は、素朴にいろめきたつのでありました。
だったら、特急で35分の佐賀にだって寄るだろう。
少年達の心には、素朴に憧れの火が灯るのでありました。
その頃の怪獣映画は特撮であります。
ミニチュアの街が丁寧に作られまして、人が入りました気ぐるみの怪獣がそこであばれるわけであります。
「怪獣ついに佐賀に来る!」
佐賀の少年達は全員そのシーンを夢想するのでありました。
こうしてその年の終業式の朝の教室は、ふだんとは比べるべくもなく怪獣映画の話題で盛り上がり、少年達は、来る休み明けの再会の日には佐賀の街で暴れた怪獣映画の話でまた盛り上あがろうぞと、固い約束をいたしまして、興奮も冷め遣らず、渡された通知表を手に手に、それぞれの家路についたのでございます。
さっそく私も、父兄同伴で観に行きました。
劇場はもちろん満員であります。
ロビーはガキどもの嬌声と親たちの怒号で大騒ぎ。
売店は金を握った親たちとジュースのコップを鷲づかみにしたガキどもでごったがえし。
親どもは、二度と来るかという顔で減り行く財布の中身を気にするばかりでしたが、ひとり映画館の館主さんのみは、大勢さんの御子ども様の御来場に揉み手でホクホク顔でございました。
さぁその怪獣映画。
確か東宝のゴジラシリーズだったように記憶しておりますが、怪獣が博多の街にまんまと現れまして大暴れ。
おそらく博多の少年達は劇場で大興奮だったでありましょう。
さぁ、次はうちだと佐賀の少年達はスクリーンの前で待ち受けた。
ところがですね。
この怪獣、空を飛びましてね、羽をバタバタっとやりますとですね、あっさり長崎に行ったわけですよ。
私、子供ながらにポカンとしまして、それ以降いっこうに物語に集中できない。
「どうして…」
「いや、違う。長崎で暴れれたあとで、佐賀に寄るんだ」
一度少年の心に灯された火はなかなか消すことが出来ない。
さぁ、怪獣は長崎の街で大暴れをして自衛隊をキリキリ舞いさせますと、また羽をばたつかせて飛翔し、あっさりと佐賀を飛び越し、またまた博多に舞い降りて大暴れ。
「今度は博多に現れました!」
「あ!またまた長崎に現れました!」
物語の中では自衛隊がと歯軋りをする。
首都では内閣首脳が歯軋りをする。
劇場ではガキどもが歯軋りをする。
「いいかげんにしろ」と…。
休みが明けまして、新学期。
少年達は再会しましたが全員黙して語らず。
前にもまして勉学に打ち込む者。
前にもまして勉学に身が入らなくなる者。
人生色いろ。
あの時の怪獣もね、よもや、観光地にしか興味がなかったわけではないでしょうが、ガキどもは世間というものを垣間見まして、もはや素朴でばかりはいられないと、少しばかり大人になったのでありますよ。
そういう少年の日の、苦い想い出をよみがえらせる、くまくまの九州旅行計画でありましたね。
いっそのこと、くまくまが九州旅行する日程をあらかじめ聞き出して、私、佐賀駅のホームで待ち構え、電車が佐賀駅に停車している間にやつめを見つけ出しましてね、引きずり降ろして二日二晩佐賀観光をさせてやろうとかとも思いましたが、いけません。
それでは佐賀の品位を落とすばかり。
長崎ちゃんぽんでもお土産に買ってきてくれればと思っております。
さて、藤村先生、週末に岩手へ行かれまして、ついでに今週いっぱいお休みでございます。
ですのでね、わたくし嬉野が、出来る限りで、皆様方のお相手をさせていただこうと思っておりますので、どうぞよろしく。
じゃ、奥さんまた明日。
本日は解散!
(16:31 嬉野)