藤村

8月31日月曜日。

藤村でございます。

先週、東京・青山で行われた樋口了一さんのライブに行ってまいりました。

会場に入りますと、なにやら人だかりができており、カメラのフラッシュがたかれております。

なんだ?

と覗き込みますと、やけにハデな帽子をかぶったババァが・・・ウチのおふくろが、満面の笑みで写真におさまっております。

「おかあちゃんこっち向いてー!」
「ハイハイー」

私は顔を伏せて急ぎホールに入りました。

「・・・なにやってんだよ」

樋口さんの「手紙」という歌。

年老いた親が子供にむけて送った手紙を元にした歌であります。

わたしが同じ話を何度もしても・・・

わたしが下着を汚してしまっても・・・

わたしがお風呂をいやがっても・・・

それはこれから始まる長い旅の準備をしているんだよ・・・

そんな歌です。

しかしながら私は、樋口さんが生で歌い上げる「手紙」を聞きながら、

「いいからもう、そのハデな帽子かぶって早く旅立て!」

そう思わずにはいられなかった次第です。

さて、DVD第12弾の作業を終え、続いてはドラマ制作に突入であります。

撮影は10月中旬。冬の足音が早くも聞こえ始める寒々とした北海道のある街を舞台に、「父と息子」の話を作りました。

とても地味な話であります。

でも、今やっておくべき話であろうと思います。

キャスティングもガッチリ固まって、いよいよ本格始動。

実に魅力的な役者さんたちがまた集まってくれました。

これからしばらくはドラマにかかりっきりとなりますが、私は同時進行で早くも次のDVD第13弾の編集も始めております。

おっ・・・キレイな夕焼けが窓の外に広がっておりますな。

明日から9月。

札幌はもう秋が近づいておりますよ。じゃまた明日。

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(18:56 藤村)

お知らせ(管理人から)

私用で明日から4日ほど留守にします。
更新は9/2くらいになると思います(更新があれば、ですけれども)。

ちなみに例えば9/1にサイトの大幅リニューアルとかあるとお手上げです。過去ログがそこだけ飛ぶって事でどうぞよろしくお願いします。

嬉野

2009年8月19日(水)

嬉野です。

根室に行ってきました。
根室の町は北海道の東の果て。
いや、根室はこの国の東の果てかしら。

遠い果ての町。
根室にはずっとそういうイメージを持っていたので、
どんなに侘しい港町かと思っていましたが、
ずいぶんきれいなとこだった。
落ち着いた静かな町だった。

オホーツク海と太平洋に細く突き出た根室半島をグルリと走ると、
海岸線には緩やかな緑の崖が続くのです。
折から差してきた夏の夕日に優しく映えて広がる岸壁の緑は、
青い空と青い海に挟まれて落ち着いた美しさを見せてくれました。

アップダウンのある半島の一本道に沿って、
電柱だけがどこまでも並び、電線はどこまでも走るのです。

その電線から枝分かれして、
所々に道からそれて伸びいく支線の先を見れば、
木造の作業所や民家に点々とつながる。

日が暮れて夜ともなれば、
電灯がともる人の暮らしが懐かしく見えるでしょう。

未舗装の道がいたるところに見えて、
その素朴な趣の眺めに、ぼくはどうにもほっとするのです。
気分が清々していくのです。

半島の先端、納沙布岬にある灯台からは、
歯舞諸島がすぐそこに見えました。

灯台が建ったのは明治五年とありました。
明治五年とは、ほんの五年前までは江戸時代だったという年です。
今、自らを振り返れば、五年などつい昨日のことのようです。
だから明治五年の人とといえども、
意識はまだまだ江戸時代の人だったはず。
そんな時代に洋式灯台がこの北国の東の果ての海を照らし始めた。
見た人はみんなどんな気持ちがしたでしょう。

江戸時代という呼び方もまだなく。
近代という言葉すら未知のものだった時代なのです。

今では歴史の彼方の陳列棚の中に遠く仕舞われた感のあるその時代にも、今を生きるぼくらが、この今の時代に逃れようも無いリアルばかりを感じるように、どこまでも今でしかない人生を送っていた人たちばかりがいたということです。

夕方、根室の町のスーパーに寄り、
うちの夫婦はぷりぷりと銀色に太ったギラギラした秋刀魚を一尾買いました。
秋刀魚は刺身にして、
その晩は花咲がにも食べました。

それでは奥さん、また明日からよろしくご贔屓に願いましょう。
解散。

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(20:01 嬉野)

嬉野

2009年8月14日(金)

嬉野です。

さて奥さん。
そんな気もしませんが、今日はお盆の中日ですよ。

昨日、先祖があの世から戻って来て、
今夜まで泊まって明日の夜に帰るということでね。
霊魂的に日本がにぎやかになっているはずの日ですよ。

でもまぁぼくは、
昔、親がやっていた事を何も学ばず生きてきましたのでね、
どうやって祖霊を迎えていたのやら、
今となっては皆目けんとうもつかず。

ということは死んだ親父もぼくの家には寄れずに帰ってしまうということなのでしょうか。

振り返れば、お盆やら正月やらの儀式めいたものは昔風のしきたりだと思って、子供の頃はただ眺めるばかりだったのでね。

つまり、ぼくはお客さんで、ここまで来てしまった日本人ということなんですね。

それは結局、ガキの頃に、親たちが運営していた昭和という時代を観光旅行していたに等しいことだよね。
だから流れ去ってしまえば、その旅の思い出が懐かしいという。

その程度の感傷でしかない。

つまり、ぼくは、古き良き時代と言われる昔の日本社会で生きる大変さや面倒くささに縛られる事無く、すなはち今日まで観光旅行しながら生きてきたに等しいということでね。

だから、いったい昔の日本という社会が好かったのか悪かったのかも、本当は何も判断できない人間なのですよ。

かなり責任のない気軽な人生を送ってきてしまったという事なのだね。

誰かに「やってみな」と言われなければ、
そして、自分でやり方を覚えようとしなければ、
何も後世には伝わらない。

文化は伝えなければという使命感からではなくて、
やらなきゃ、きっとばちが当たるといった、
畏れに背中を押されながらでないと、
とても長続きはしないような気がするよ。

ぼくらの内の誰かが、
いつか新しい文化を創造して、
それを後世に伝えていくのなら、

ある種、神経に脅迫的な迫り方をする、仕掛けが伴わないと、
あいかわらず、ぼくらは、お客さん的な日本人のままで、目標の見えない日本という国の中を観光旅行し続けるだけじゃないのかなぁと、思ってみたりするのです。

人は立ち止まる事が出来ても、
社会は立ち止まる余裕など無く常に動いていなければいけないのでしょうか。

立ち止まって、こっから、どっちへ向かうのか、
考えたりは出来ないのでしょうか。

どうしてもぼくは、一回立ち止まって、
こっからどっちへ向かおうかと、思案する時間がなければいけないような思いだけが、どうしてもあるのですが、

ねぇ奥さん、どんなもんだろ。

明日から、嬉野さんは道東方面に女房と旅に出ます。
道東はもう涼しかろうか。
寒いのかも知れず。

しばらくお愛想なしですが、
みなさんどうかお健やかで。
いるんですよ。

ではまた、来週の、どこかで会いましょうの、心だ〜!

解散。

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(18:38 嬉野)

嬉野

2009年8月12日(火)

嬉野です。

現在予約中のどうでしょうDVDのジャケット絵や、
ディスクに刷られるレーベルの絵や、
冊子の絵や、
今回は、おまけで封入する、シェフ大泉の直筆メニューと、
アラスカでシェフ大泉が作った料理のレシピ(イラスト付き)なんていうのもあって、
これらが本日いろいろ刷り上って来て、なんとも好い感じです。

10月の終わりには皆様のお手元に届きますので、
もうしばらくお待ちくださいませ。

それでは本日は、この辺で。

また明日。
解散!

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(20:04 嬉野)

嬉野

2009年8月11日(火)

嬉野です。

静岡で大きな地震あったんですね。
大分の竹田では土砂災害です。
姫だるまの後藤さんは、
かろうじてお元気の御様子ですが、
被害に遭ってしまったみなさんは怖かったでしょうね。
それを思うとなんとも言えないね。
自然災害はやっぱり恐ろしいです。

さて、昨日ね。
女の子が掲示板に書いてたのがね。
電車で隣に座ってきたおじさんが、
網棚にリュックを置こうとしていたところ、
リュックのポケットに差していたペットボトルを落としちゃって、
それが運悪くその子の足に落ちてきたそうでね。
それも固いキャップの部分が足の指に当たっちゃったから、
相当の痛みで、おまけにどうも中の水を凍らせていたらしく、
おまけに、その女の子は素足にサンダル履きだったから直撃で。

鈍器を2メートルの高さから足の指に落とされる刑と言ってもいいくらいの激痛が走ったそうでね。
実に可哀想な始末で。

でも、そのおじさん、蚊の泣くような声で、
「すみません…」といっただけだったそうで。
その子も反射的に「いえ、いいです」って返しちゃったそうで。
で、おじさんは、それ以上詫びるでもなく、
暑そうに扇子パタパタしてすましちゃったそうでね。

その子はおそらく悲しかっただろうよ。

人間って気持ちで生きてる部分があるから。


のおじさんが、熱意を持って汗かきながらその子にあやまってくれたら、その子だって足の指にペットボトルが落ちてきた痛みぐらい忘れられたろうけど、おじ
さんは、その子が「いいえ、いいです」って言ったものだから、「あ、いいんだ。なら、いいんだろう」で済ませちゃったんだろうね。

この頃のぼくらには、想像力が欠けているのかもしれない。

じゃぁ、その女の子は、その張本人のおじさんに、
もっと強く抗議すればよかったのだろうか。

確かにそうすれば、おじさんも、もっと詫びたかもしれない。
「あんた!なに考えてんのよ!もっとあやまんなさいよ!」って。

でも、その子は、そうは言わなかった。
言えなかったんだろうね。

そういう風に咄嗟に言えるためには、
日ごろから言い慣れていないと言えないものだよ。

つまり、その子は、めんどくさい人間関係のなかで、
苛立ちながら育たずに済んだ子だったと言えると思うよ。

世の中の傾向としてさ。
人は、自分に執拗にからんでくる面倒くさいものに対しては、
その面倒くささを止ませるために対応することがあると思う。

怒りが収まるまであやまるしかない、とかね。

だから、面倒くさく、からむことができない控えめな人は、自分が気持ちの中で望んでいる対応はしてはもらえない可能性の方が高いんだよね。

そういうことになる。

じゃぁ、その子はどうすればよかったのか。
いや。
そんなことは、ぼくには分からんのだが。

なんだか、その子を慰めてあげたかったんだよ。
そうするしかできなかったその子をね。

そらぁ痛かったなぁって。
そらぁおめぇひどい目にあったなぁって。
でもまぁ、好い人も居るからさぁって。
まぁもう気にするなよってさぁ。
あんたなんも悪くないのにねぇってさぁ。

そういう気休めを、言ってあげたかったんだよ。

それくらいだわ。
でも、それだけだって好いだろうって、思うから。

まぁ、ここに書いてみた。

出逢いこそ人生だから。

やな人に会うことも。
好い人に会うことも。

そして、誰がやな人で、誰が好い人か、
なにが嫌で、何が好いかも、
感じ方は、その人によってまるで違う。

それでも、人間同士がぶつかり合うことが、人生だと思う。
ぶつかってどんな気持ちになるかはいろいろだけど、
人と人が、ぶつかっているうちは、人はものを考えるんだよ。

いろんなことに遭遇して、ぶつかって、
自分の気持ちをかき回されて、
かき乱されて、
それでも、とにかくふうふう言いながら、
その凹んだ気持ちを乗り越えていく。

昨日も今日も、ぶつかることの繰り返しだったから。
明日もあさっても、ぶつかることの繰り返しだよ。

でも、ぼくらは、どこまでも、
ぶつかることを繰り返していくしかない。

ぶつかって、やなことがあったら、
また次もぶつかれるように、凹んだ気持ちは乗り越え欲しいよ。

多分、ぼおくらは、ぶつかることを忌避しては、いけないのだよ。

だってぼくらは、分子や原子の果てまでもさ、
ぶつかり合っているのだものね。

ぶつかることは、ぼくらが動き回っていることの証でもある。

ぶつかって、ぶつかって、
動き回る事が、ぼくら生き物の命題だと、
ぼくは、どこかで思うことがあるよ。

これはまぁ、ぼくが、自分に言っていることなのだよ。

気休めに過ぎないが、
慰めてやれたのなら好かったがと、思うな。

そしてまた、明日からも、ぶつかってほしい。

じゃ、また明日。
解散!

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(14:39 嬉野)

嬉野

2009年8月10日(月)

嬉野です。
藤やんがお休みに入りましたんで、
私がしばらくお相手をいたしますが、
とは言いつつ、このところずっとやってましたが。

でもまぁ奥さんあれですよ。
札幌辺りも今日は真夏日でして、
納涼というわけでもないですが、
本日は怪談話でも書いてみようかと思いましたんですよ、はい。

しかしまぁ怪談とは書きましたが、
これは家の女房から聞かされた話なんでございます。
ただ、少し、奇妙な話だったんでございますよ。

聞いたのは9年前です。
ある日曜の夜のことだったですね。
まぁ、聞いたといいますか、さぁ寝ようかと明かりを消して部屋が暗くなりましてからね、一方的に妻から聞かされた話だったんでございますよ。

話というのはこうでした。

9年前のその日。
妻は週末を利用してバスで5時間ほどの温泉場へ友人と旅をした。
凍った沼の上に冬の間だけ露天の温泉ができるらしく。
妻はその温泉に入ることをずいぶん前から楽しみにしていた。

朝方、大通からバスに乗るので妻は9時前には家を出た。

友人と待ち合わせをした妻は大通で落ち合いバスに乗った。
バスは妻とその友人を乗せて5、6時間も雪道を走ったというから、バスが目的地に着く頃には、日はすっかり傾いていた。
バスを降りた二人は夕景の光の中を宿へ向かうことになった。

二人が泊まった旅館はずいぶんと活気があったらしく、
「食後にはビンゴ大会を開きます」とか、
「食後にホールで和太鼓の演奏を行いますのでお楽しみください」などと、あれこれ楽しげなイベントをしつらえ、遠来の客を歓待することに努めていたという。

妻と友人は仲居さんに案内されて部屋に入った。
仲居さんは館内の設備をざっと説明すると、
「それではごゆっくり」と言い残して出て行った。

妻と友人は座布団に腰を落ち着け、
仲居さんが淹れてくれたお茶を飲みながら、
とりとめもない話をしていたという。

その時、不意に近くで大きな音がした。
何かを叩いたような音だった。

(何の音だろう…?)

妻は友人に尋ねた。

「ねぇ…、何の音だろうね?」
「なにが…?」

友人は不思議そうな顔をして妻の顔を見ていた。

「ほら、今、大きな音がしたじゃない」
「音…?」
「ばんばんって、何か、叩く音…、したじゃない」
「え…?わかんない…」
「…」

妻は不意に嫌な胸騒ぎがした。
だが、友人は気にもとめずお茶をすすっている。
その時、部屋の隅に置いてあるテレビが妻の視界に入った。
それを見た瞬間、妻はぞっとした。
(あれだ…。あれはテレビを叩いてた音だ…。)

だが、友人は相変わらず呑気そうにお茶を飲んでいる。
妻は、それ以上その話をすることを止めた。

日が暮れきる前に、妻は友人と楽しみにしていた露天風呂へ行き、凍えるような気温の中、凍った沼の上にしつらえられた露天の湯船に浸かった。

湯船の近くには地元新聞の記者が来ていた。
記者は露天風呂に人が集まるのを待ちかねていたのか寒そうに肩をすぼませながら、

「すいませーん。写真を撮らせていただきます。都合の悪い方は後ろを向かれても結構ですから」と言うなり写真を一枚撮り、ホッとした顔で機材をまとめてさっさとその場から去って行った。

宿の人の話によると露天風呂は24時間入ることが出来るということだった。

念願の露天風呂に入って満足した妻は、食事を済ませた後ホールへ出向き和太鼓の演奏を友人と二人で聴いた。

その後、部屋に戻ると友人はバスに長時間揺られた疲れからか、さっさと寝てしまった。
妻も疲れていたのだろう、寝酒に日本酒を一合ほど呑むと心地よい睡魔に襲われて早々に眠りについてしまった。

どのくらい眠っていただろう。
妻は不意に目を覚ましてしまった。
大きな物音がしたのだった。
夜中だった。

妻は布団の中で目を開けたまま、しばらく耳を澄ませていた。

また、音がした。

あの音だった。
誰かがテレビを叩いている。

テレビは妻の頭の上の方にあった。
音は明らかにそこからした。
人の気配がした。
誰かが自分のすぐそばにいる。

友人は眠っていた。

妻はゆっくりテレビの置いてある方を見た。
すると、テレビと床柱の間の狭い隙間に若い女の人が座っていた。
そうして妻のほうをじっと見ていたらしいのである。

「あたし、怖かったの…」
「だって、その人、なんにも言わないんだもん。なんにも言わないで、私のことじっと見てるのよ…。どういう人だか分からなくて…、すっごく怖かった」
「そしたら、そのうち、私、落っこちていったの…」
「崖のようなところから。すっごい勢いで…」
「その人、私をじっと見てた…。私、思ったのよ」
「あぁ、この人、崖から落ちて死んだんだなって。それも好きだった人に追い落とされて…、落ちていったのかなって…」

ぼくは奥さんね、騒ぎたかったですよ。
騒いで話を止めてもらいたかったですよ。
だって状況は夜ですよ。
明かりを消してあたりは闇ですよ。
「でね、私、連れてきちゃったの…。ほら、そこにいるじゃない」
なんてなことを言われたら最後でしょ。
だからぼくは恐る恐る話の先を聞いのです。

「それで、どうなったのさ」
「それがね、知らないうちに眠っちゃったらしいのよ」
「なんだ、眠っちゃったの…?」
「そう。そしてもう一度目が覚めたのよ」
「…」

「テレビの横にはね、もう誰もいないの。さっきまでしてた人の気配もしないし。でもね、誰かが泣いているのよ…。そしたらね。横で眠っている友達が泣いているのよ。その子、起きてるのかなって思ったから声かけてみたの。ねぇ、起きてるの?って。でも返事が無い。
やっぱり眠ってるんだ。悪い夢を見ているのかもしれない。そう思ったから、そばに行って揺り起こしたの」

「そしたら。目を覚まして…。私、聞いてみたのよ。何か嫌な夢でも見てたの…?」って。
「でもね、本人は、どうしてって眠そうな顔をするだけなのよ」
「だから私、それ以上なにも言わなかったの」

そうしてその夜は、それ以上何も起こらなかったという。

翌朝、妻は6時に起きると、一人でまた露天風呂へ入りに行っている。
そうして最後の温泉気分を満喫して8時には
部屋へ戻った。

友人はまだ布団の中で眠っていたから妻は大声を出して友人を起こした。

「起きろ〜!8時だぞ〜!」

友人はようやく眠い目をこすりながら布団の上に半身を起こした。
そうして妻を見上げながら言った。

「ゆきこさん。何時からお風呂に行ってたの?」
「6時からだよ」
「その前は?」
「え?その前って?」
「夜中いなかったじゃない。お風呂行ってたんでしょ?」
「行ってないよ…」
「じゃぁどこに行ってたの?」
「どこにも行ってないよ。ずっといたよ…」
「ううん。いなかったよ。ずいぶん長い間いなかったよ」

そう言い終えると友人は布団を出て顔を洗いに行った。

帰りのバスに揺られる頃。妻は友人に聞いてみた。

「昨日の夜さ…」
「うん」
「泣いてたんだよ、あんた」
「そう?泣いてたんだ、わたし」
「なにか悲しい夢でも見てたの?」
「夢…?あぁ、そういえば、何か、夢、見てたな…」
「見てた…?」
「うん」
「どんな夢?」

「なんかね…。すっごく高いところから落ちていく夢だった…」。

●この日記は、もちろんフィクションですので、
奥さん、どうぞ御安心を願いますよ。

でもねぇ。幽霊くらい出た方が好いんです。こんな時代。
慎ましやかな幽霊に比べたら、生身の人間の方がどんだけ怖いか。ねぇ。そのことを日々思い知る今日この頃でございますよ。

人をだましていた狸や狐はどこへ行ったのか!
それはまた、明日の心だ!

台風がひどいようです。
みなさまくれぐれもお気をつけください。
では解散!

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(18:53 嬉野)

藤村

8月6日木曜日。藤村でございます。

嬉野、福屋キャップのドラマプロデユーサー陣が出張の中、居残りでDVD第12弾の最終作業をしております。

ここ数ヶ月ほとんど休日なしで続けていた編集作業もまもなく終了。

今、目の前には、すべての作業を終えた「香港」「門別沖釣りバカ」そして「北極圏」第一夜、第二夜を収めたテープがございます。

さぞや完成したこのテープには感慨深いものがあるだろうと、思うでしょうが、意外にもたいした感慨も愛着もない。

なんなら「早く持ってってくれ」っちゅうぐらいの気持ちであります。

たぶん自分の中の愛着とかそういった感情は、編集室の中でのひとりの作業で、すべて使い果たしてしまったんだろうと解釈しております。

あとは皆の衆にすべてをゆだねる、そんな気持ちであります。

来週はお休みをいただきます。

再来週からまたこちらに戻ってきたいと思っております。

ではラストスパート。やってきます。

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(14:56 藤村)

嬉野

2009年8月5日(水)

嬉野です。

樋口さんの歌っている「手紙」という歌は、
ぼくに、いろんなことを思い出させるのです。

ひとつは赤ん坊の頃が自分にあったという事実です。
樋口さんの声で、歌詞を聞くうちに、
あぁそうだったと思ってハッとするのです。

そうだった…。
なんにも出来ない時期というのがオレにはあったんだ。

ミルクを飲ませてもらったり、お風呂に入れてもらったり、
おむつを替えてもらったり、あやしてもらったり、
なにからなにまで依存できる親という者がいてくれなければ生きてはいけなかったという時期があったんだと。

その時、親父やお袋にも若かった時期があったんだという、あたりまえの事実にやっと気づくのです。
そして父親と母親に構われる幸福な自分をイメージするのです。

そしてなんだか、それがとても懐かしくなるのです。

そのうち、なんだか泣けてくるのです。

でも、赤ん坊の頃の記憶なんか人間にはないんです。
だから思い出すんじゃないはずなのに、
勝手にイメージするだけなのに、
それでもなんだか思い出すんです。

それほど心に浮かんだそのイメージは、
なんだか無性に懐かしいのです。

あの歌詞が心に沁みてくるのは、その心があるからだと思うのです。

老いて行く姿もそうです。
それは今、目の前にいる親の姿ばかりではないのです。
むしろそれは、この先にある自分の姿なのです。
ぼくはそう思います。

その老いて行く自分の姿が、
忘れていた自分の赤ん坊の頃の幸福なイメージと重なっていくのです、
だからあの歌を聴いていると、自分の中のどこかがホッとする。
ホッとして、安堵して、安心する。
だから心が素直になって、いつか泣けてくるのです。
ぼくはそうです。

あの歌はだから、
今生きている人、全てを肯定する歌なのだと、
ぼくは勝手に思ってます。

人を前に向かせてくれる、
ぼくらに必要な歌なのだと思えるのです。

というねぇ奥さん、
本日もあてずっぽうを言いながら、
終了でございます。
では解散!
明日から出張の心だぁ!

またねぇ〜。

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(14:39 嬉野)

嬉野

2009年8月4日(火)

嬉野です。

さて、夜の10時になりそうですが、
藤村先生はまだ編集室から出てまいりません。

この三ヶ月間、こもりっぱなしで編集をしておりましたが、
いよいよラストスパートでございます。

先生は、来週一週間お休みする計画でございますので、
最後の気力を振り絞っておるのだろうと推察いたします。

先週末の副音声録音でも、先生は帰り際に脱力していました。
疲れ果てておりました。
あの日も全力投球でございました。

過去に放送した番組を、DVDでもう一度見てもらう。
そのために三ヶ月間という時間を費やし再編集をするわけでございます。それもこれも面白いから費やせるのだろうと思います。
そして、やり始めたら案の定、
止められぬほど面白いのだと思います。
だから三ヶ月間も編集室にこもって編集できるのでございます。

つまり作り手は幸せなのでございます。
だから見るほうも幸せになれる。そういうことでございましょう。

いっけん、放送時と大差無く見過ごしてしまう箇所もございますが、微妙に編集を変えてきているところがございます。
毎回、繊細に作りこんでおるようでございます。

11年前の番組を同じディレクターが再編集するということは、
あれから11年の間に培った経験とその間に磨かれたセンスで再構築されるということでございます。

同じディレクターが繋ぐから、
昔の想いはそのままに、
そして今の感覚で新たに整理された分、気持ち好く、
あの日のままに面白く、可笑しく、
変わることなく笑えるのだと思います。

タレントは幸せだと思います。
本当にそう思います。
11年たっても、こうして時間をかけながら、彼らの魅力はメンテナンスされていくのですからね。時間の圧力に放置され、彼らの魅力が損なわれるという事がないのですから。

こんな贅沢な事ができるのも、
田舎ならでは、北海道ならではということに、
今の時代は、なっておるようでございますね。

ディレクターだったら、本当はみんな同じようにやりたいだろうになぁと、藤村先生はいつかポツリと言っておりました。
誰もがやりたいはずなのに、それをさせない何かがある。
それが今という時代なのだろうと、そう申しておりました。

2003年から始まった「水曜どうでしょうDVD全集化計画」も今年で6年目でございます。
この秋の10月28日に12弾は皆さんの手に渡ります。
まだまだ先のことですが、この先に楽しみが待っているのだと、
お思いになって、どうかこの先の人生をお励みくださいませ。

さて、今日は「徹子の部屋」に樋口了一さんが出演して、
「手紙」を歌ってましたよ。見ました?みなさん。

じゃ、また明日!
解散だ!

あしたもまた来いや。

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(21:53 嬉野)