7月8日火曜日。
こちらの日記に戻ってまいりました、藤村でございます。
ドラマ「歓喜の歌」の撮影が終わって一週間が経ち、ようやく少し落ち着いたところでございます。
撮影直後は、「一日置いたビーフジャーキーみたい」と揶揄されるほどの干からびようで、実際体重も減りましてですね、さらに家へ帰ってからも寝付きが悪くて目を閉じれば撮影現場が脳裏に浮かび、思わず「本番!よーい!はいぃッ」なんて枕元で口走る始末。
撮影中もですね、4日目ぐらいでしたか、朝起きたら突然左足のふくらはぎがつりましてですね、早朝のベッドでひとりのた打ち回るということもございました。
足がつる、なんてことは学生時代にもなかったことです。
その2日後には右足もつりましてね、四十三のおっさんの足がバレリーナのごとくピーンと伸びきりまして、男藤村パンツ一丁、伸び放題の足をひーひー言いながらさすっておりましたよ。
現場は実に楽しく和やかに進行しておりましたが、やはり初の本格的カントク業、2週間近い撮影期間で、精魂使い果たしておったのでありますなぁ。
しかし、それほどまでに、そこまでのめり込んでしまうほどに、この「歓喜の歌」という作品は面白かったんです。
立川志の輔さんの傑作落語を、チョン・ウィシンという脚本家が台本にした。
その台本は、実に「含みがある」というか、読み方によって幾通りもの演出が可能だったのであります。
例えば。
「これ、ダンナが作った健康ジュース。はっきり言ってまずいわよ」
田中裕子さんからそう言われて渡された青汁を大泉さん演ずる主任が飲む、というシーンがあります。
台本には、「いただきます」と言って飲む、とだけ書いてあります。
どんな顔をして、いつ飲むのか、書いてない。
田中さんのセリフは、実にしんみりとした、いいセリフが続きます。
台本を読む限り、泣けるシーンです。
でも、どっかのタイミングで、まずい青汁を主任が飲む。
きっと、「まずい」という顔をするでしょう。
これ、タイミングを間違えば、いいセリフを殺してしまう。
普通に考えれば、まず青汁を飲んで「まずい」という顔をし、お互い顔を見合わせて笑い合って、しんみりした話に入っていく・・・というパターン。
でも、単純に「笑い」の後に「しんみり」したくはなかった。もっと何か違う演出はないだろうかと考えた。で、大泉さんと話しをして、飲むタイミングを決めました。
さらにどうだ?いっそのこと1回ではなく、2回飲んで「笑い」の部分をもう少しねばってみようかと。
結果、ただしんみりするだけではなく、おもしろカナシイような、私の好きなシーンになりました。
全編通して、チョンさんの描く話は、ただ悲しい、ただ泣ける、という終わり方はしていない。必ずどこかに「おかしさ」を隠している。
それを嗅ぎ取って、演技に盛り込んでいくのがカントクと役者の作業であり、それが実に楽しかった。
ドラマ「歓喜の歌」。
映画とも落語とも違う、泣いて笑って、ほっとする、もうひとつのお母さんたちの物語が、ちゃんと出来上がったと思います。
さぁ、今週から編集です。
実に、実に!楽しみでありますよ。
(16:56
藤村)