2007年7月20日(金)

嬉野

はい、嬉野です。
先週の金曜日に、藤やんが、東京のエスカレーターの話をしてましたね。
「どうして左側にだけビッシリならんで右はガラ空きなんだ」と。
「混んでる時に、おかしいじゃないか」と。
確かにね、あれは異様と言えば異様な光景かもしれん。
でも、片側がガラ空きだからこそ、急いでる人は、どんどん急いで昇って行ける。
事実、数分の遅れが「電車や飛行機に乗れる・乗れない」の明暗を分けたりするからね。
急ぎたい状況の人は、それはもう急ぎたいのは無理のないところだと思う。
だから、つまりあれは、
「公共の場でのエチケットなんだ」と。
「ゆずりあいなんだ」と。
そういう意見も掲示板にありました。
まぁ、ぼくも、東京では左に寄って乗るようにしてますね。
でもそれはね、エチケットというのではなくて、うかうか右に乗ってると煽られるから。
つまり「急いでないお前が空いてる方に乗ってるのは間違っているんだぞ」と、後ろから圧力を掛けられるから。
それが面倒だから、皆がビッシリ並んでる左側に皆と同じように大人しく乗るようにしている、ただそれだけの話で。
急いでる人に気を遣ってというのではなく、気が立ってる人の邪魔にならないように、とにかく係わり合いになりたくないから、という、そんな消極的な思いに過ぎないような気がする。
皆も、そんな感じで、とくに「何故?」ということを考える気にもなれず、なんとなくギッシリ並んでる方に、あたり前に大人しく並んでるんじゃないのだろうか。
だってギクシャクしたくないから。毎日の事だから。
まぁ中には、ひょっとするとね、
「自分も急いでる時にガラ空きのところを駆け上がって、飛行機に乗り遅れないで済んだ経験があるから、そんな人の為に、自分が急いでいない時は率先してギッシリの左側に乗るようにしてます」という人もいるのかもしれない。
でもまぁ、その辺りの理由は何にしろ、確かに大人しく左に寄って乗ってれば、誰からも圧力を掛けられず、なんの問題も発生しませんし、片側を急いでる人のために空けるという、あのシステムは一見うまくいってるようにも見えるから、ひょっとするとこのままで好いのかもしれないと思ってね、みんな黙々と左に寄って乗ってるのかもしれない。
都会のエスカレーターではね。
どーもそんなこと、たいして考えてもいなかったからね。ぼくも。
藤村先生に言われて、そう言えば、自分もそのシステムに従っているなぁって改めて思ったくらいですよ。
昔はね、階段が併設されてたから。
急いでる人は階段を駆け上がっていたね。
(まぁ、もっと昔は階段しかなかったわけなんだけどね。)
ところがある時代から、階段が無くなって、エスカレーターだけの所が出てきた。
あれは多分、東京の地下鉄がどんどん深い深い地下へ作られるようになってからのことではないのかな。
新御茶ノ水とかを皮切りにね。
そんな深いところへ客を下ろしたり上がらせたりするのに階段は現実問題きついだろうし、階段なんかあっても誰も利用しなくなるだろうから、階段は無駄だということでね、エスカレーターだけにして、階段を併設するのを止めたのかもしれない。
つまり、「エスカレーターの片側を、急いでいる人の為に空ける」という都会のマナーは、そんな都市の状況の変化が生み落として行ったものなのかも知れないね。
1980年代から、駅のエスカレーターに、
「急いでる人の為に右側を空けましょう」
みたいな張り紙がされ始めたような記憶があります。
だから、駅の指導で始まったことだというのは間違いないと思うなぁ。
「けんかエレジー」という面白い日本映画がありまして。
もう40年以上も前の映画ですが、監督は鈴木清順さん。
主演は高橋英樹さん。
時代設定は戦前の日本。昭和10年頃なのかな。
高橋英樹さんは、旧制中学の生徒でね。
昔の中学は5年制だったから、中学5年生は17歳なんだけど、それでも高橋秀樹さんの中学生とうのは、当時でも既にずいぶんヒネタ中学生でしたね。
ぼくはその映画をテレビで見ました。
高橋英樹さんは、とにかくケンカ早い男の子の役で、正義感が強いんですね、おまけに腕っ節も強い、それで自分は悪く無いんだけど、ケンカ、ケンカで問題ばっかり起こすもんだから岡山の中学にいれなくなって、田舎の中学へ親戚を頼って転校するんだね。
で、ちょと大人しくしてる。
すると地元の中学生は、「あいつ都会者づらしてやがるなぁ」、ということでね、高橋英樹さんに、何かと、ちょっかいかけるわけです。
ある日、高橋英樹さんが、往来の端を大人しく歩いていると、前方から上級生がやって来る。そして、往来の隅を歩いていた高橋英樹さんに絡むんですね。
「おい!お前!何をいじましく道の隅を歩いとる!男は男らしく、もっと堂々として、いつも道の真ん中を胸を張って歩くもんじゃ!」と。
すると高橋英樹さんは、「ポカンとした顔をして」言うんですね。
「ほなら、あんさん、前から犬が来たらどうします?」
「犬なんか、オレのまたぐらくぐって行くべッちゃ!」
「そしたら人が来たらどうします?」
「ふん!相手の方で恐れをなして、オレを避けて行くべッちゃ!」
「そんなら戦車が来たらどうします?」
「戦車…」
上級生は言葉に詰まるんですね。
「戦車が来たらどうします!」
「せ、戦車が来たら、そん時は、轢かれんように、道の隅っこを歩くっちゃ!」
すると高橋英樹さんは「ほーらみろ」とう顔で言うわけです。
「あぁそーですか!弱い者が来たら威張り散らして、強い者が来たら小さくなる。それがあんさんの言う、男らしさちゅうーもんですか!」
それを見てて、中学生のぼくは、「理屈というものは面白いなぁ」と感じたわけです。
確かに「男らしくしろ!」という、理念としての理屈もある。
でも、じゃぁ男らしさって何よっていう根本的な問題が出てくる。
男らしさにも百人百様、いろいろあるでしょう。
「常に堂々としていること」。それが「男らしさ」だと言われれば、そうかも知れないと思ってしまうぼくもいたわけです。
でも、戦車が来たら堂々としてられないで道の脇を歩くようなら、初めから大人しく道の脇を歩いていれば好いじゃないですかという、高橋英樹さんの理屈は、物事の根本まで沈潜したようで、物凄くスッキリする理屈に思えたのですね。
なるほど、つまり自分の限界を知った上で、常に行動するって、すごくスッキリしてて好感が持てるものだなと、そのシーンを見て子供心に感心したわけですね。
「限界があることを知るのって好いもんだなぁっ」て。
だからもし、東京の新しい地下鉄がもっともっと、もーっともーっと深い深いところに出来るようになってね、それこそ5キロも10キロもエスカレーターで降りていかなければならなくなったらですよ、それでも、急いでる人の為に片側を空けておくのって意味があるんでしょうかね。
たいがい急いでる人でも、そんな長距離のエスカレーターを駆け足で上り下りするのは、幾らなんでも、しんどすぎるのではないでしょうか。
「何十分急がされるのよ」、ということですよ。
でもまぁね、それは極端なたとえ話でして、現実はそんなことにはならないでしょうが、
でも、急ぐ急ぐと言ったところでね、所詮は程度問題なのだろうなということだけは確かな事のような気がします。
まだね、現状のエスカレーターの長さが、駆け下りたり駆け上がったり出来る長さだから、急いでいる時は、駆け上がりたくなるし駆け下りたくもなる。
「出来るのに」って思ったら、出来ない状況に我慢がならないと思ってしまうのが、多分、ぼくら人間共通の心理なのだと思います。
だからね、「とてもじゃないが、この距離を急いで駆け上がり通す自信は無い」と納得したら、その時はもうね、駆け上がったりしないで、みんな大人しく左右均等に肩を並べて立ってね、エスカレーターに黙って上まで連れてってもらうのだろうなと思うわけですよ。
そしてね、そうやってだまって乗ってるぼくらを、勝手に上まで乗せていってくれるのが、エスカレーターの本来の役目なんですものね。
エスカレーターって、そういう機械なんですものね。
そういう話をね、だいぶ前ですが、
「トリビアの泉」で、やってましたよ。
「エスカレーターは片側だけに極端な負荷を掛けて乗るようには作られていません」
「片側を空けて乗るのは故障の原因になりますから止めて頂きたい」って、
メーカーの専門家の方が言ってましたね。
御出演のみなさん、盛んに「へぇへぇ」叩いておられましたよ。
私ら夫婦も「へぇへぇ」思いましたよ。
「エスカレーターを駆け下りたり駆け上がったりするのは、特に危険ですからお止め下さい」とも専門家の方は言ってました。
誤ってエスカレータで転がり落ちたりすると、ほら、あれって角がギザギザしてるからさ、大怪我してしまうらしいんですね。
だから、「都会のエチケット」がどうあれ、
エスカレーターを作った人たちは、片側だけ空けたりしないで、左右均等なバランスで乗って、昇降中は大人しく手すりにつかまって乗っている人たちを想定して、エスカレーターを設計しているのは、間違いのない事実。
だから、「トリビア」を見た翌日、ぼくも札幌駅のエスカレーターに、左右に並んで乗ったけど、やっぱり後方からの圧力を感じたな。
で、やっぱり止めた。
専門家の勧める通りに乗った方が「正しい」のだと思うのだけど、現状大事故も起きてはいないし、今後も起きないのかもしれないし、だから、とりあえず一見うまくいっているようにしか見えない暗黙のシステムは、なかなか変えられるものではないでしょうね。
世の中というものは、そうしたものなんだと思います。
専門家が「正しく乗ってくださいね」と呼びかけても、それが余ほど切実な声にならない限り、誰だって「大丈夫だよ」って思ってしまうだろうしね。
でも、いつか、どこかで大事故が起きたら、
つまり長年、片側にだけ負荷を掛けてエスカレーターに乗り続けていたものだから、そのことが原因で、ある時、下りのエスカレーターが不意に停止してしまったら。
その時、駆け下っていた人は勿論、大人しく乗っていた人たちもつんのめってしまって、手すりにつかまっていた人たちも、後から後から人が雪崩のように落ちてくるものだから、堪えきれず落ちて行って、大惨事になってしまう。
そんな事故があれば、その事故を知った瞬間から、もう誰も急いでいる人の為に片側を空けようなんて思いもしなくなるだろうね。
でも、そんな事故がもし起きたら、
それは誰のせいなのか。
そうね。
多分、責任は、ぼくらみんなにあるんだろうね。
危ないと分かっていた人も、なんとなく違和感を感じていた人も、急いでる人の為に片側は空けるものだと信じていた人も、多分、みんなに責任がある。
ぼくらが、老人になった時にね。
「あぁ、昔はよかったなぁ。」
「なんて、今はヒドイ時代なんだろう」って。
そんなことを思ってしまうような時代だったら。
その時、そんな時代になっていたら、
それは、ぼくら全員の責任だったんだな、ということだと思います。
未来は、ぼくらが作ってるんですよね。
毎日ほんの少しずつ。
昨日も今日も。
ぼくらが少しずつ作ってる。
それと気づかないうちに、つくり始めている。
もうずっと昔から。
なんか、そんな気が、今、不意にしました。
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057711(まるこ なかなかいい)←暫定語呂
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(19:53嬉野)