2012年11月3日(土)
嬉野です。
クジラさんが書き送ってくれる
「ラブレターfromクジラ2奮闘編」
というタイトルのイラストエッセイ企画を先月から始めて、毎週金曜日になると更新しています。
クジラさんは、2年ほど前に札幌で知り合った60歳を過ぎた
絵描きのおじさんですが。今、家族と別れて12歳になるゴールデンレトリバー犬と八丈島でくらしています。
札幌にあったクジラさんの家はもう人手に渡ってしまってね。
八丈島に越していったおじさんにはもう帰るところがない。
その境遇は実に哀愁が漂い過ぎるのだけれど。
でも、救いは、おじさんが、いろんなことが出来る人だということだな。
絵はもちろんのこと、料理もプロ。
趣味で陶芸もやるらしいよ。
美術の人ってそういうことなんだね。
でもやっぱり歳だから、
膝を痛めて杖をついて歩くこともある。
でも、そういう傷ついた野生動物的な素振りを見せても、
可愛い女の子が近寄ると口説きもするわけでね。
まぁ当たり前ながら上手くはいかないようですが。
でも、そういうおちゃめなところがあるのも救いだと思うな。
外見から眺めるおじさんの風貌は、
実に茫洋として、のどかだからね、それも救いなのだ。
それでもね。
内面は分からない。
けど、まぁ人間、ひょっとすると内面なんてものは要らないのかも知れない。
ただ、そうは言っても、おじさんも高齢化していくわけでね、少し心配でもあるのです。
だから、ぼくは、週に一回、
八丈島から手紙を呉れるようにクジラさんに言いました。
その手紙を見れば、クジラさんがなんとか生きていることを知ることができるから。それが「ラブレターfromクジラ2奮闘編」です。
クジラさんが、書き送ってくれるのは、八丈島での日々の暮らしの中の小さな小さな出来事です。それを独特の素朴な文章にまとめて得意のイラストをつけて送ってくれるのです。
もちろんクジラさんは、別に八丈島へバカンスに行ったわけじゃない。大人の事情でね、行くとこが無くて八丈島へいったのさ。
この先、クジラさんがどうなっていくかなんて、クジラさんにも分かるわけがない。
それでもね、将来のことなんか本当は誰にだって分かるわけがないよ。未来の自分をイメージして、その自分に近づくために今の自分を頑張るなんてことも、実はそんなに上手に出来ないのが人間だと思います。
人間に出来るのは、今、自分の目の前にある状況を乗り越えて行こう乗り越えて行こうとすることだけだと思う。
その都度の状況に対応していく。
人生って結局それを繰り返し続けるだけのことじゃないかな。
とりたてて目覚ましいことは何も無いけど、それでも日々の繰り返しの中で、不意に大事なものが見えた気がするから。そんなことってあるから。そんなことって大事なんじゃないのって、クジラさんが教えてくれるかもしれない。
だから時間のある時はみなさん。
おじさんのページを覗いてみてください。
そしておじさんが60歳を過ぎた年齢から、また一人で、そして知らない土地で、もう一度ゼロから生きようとしているって事実を知ってほしい。
それで。おじさんのことが気に入ったり、気になったりした人はさ、おじさんに励ましのお便りを書いてください。
多分、おじさん、とても喜ぶと思うからね。
では、この星で生きるみなさま。
本日もお疲れさまでした。
引き続き、明日もまた、各自の持ち場で奮闘願います。
来週まで、解散です。
【藤やんうれしーの悩むだけ損!】
ネットサイト「電撃オンライン」にて月2回のペースで「お悩み相談」を執筆しております。
(18:20 嬉野)
2012年11月3日(土)
2012年11月2日(金)
2012年11月2日(金)
嬉野です。
11月です。
さて奥さん、
温泉町というものがありますが、
自分の故郷が温泉町だったらなぁと思うことがございますよ。
温泉町は、湧き出る温泉の湯を求めて人が集まるようになり、出来た町です。そこは、温泉の湯が町の柱と誰もが認識する町です。
山間に湧き出た湯量豊富の温泉に、
湯の効能を求めて訪れた都会の人たちが、
「ここの温泉は気持ち好いなぁ。このままここに泊まりたいものだなぁ」
と言いだし、そんな声が、あちらからも、こちらからも湧き始めると、
目ざとい誰かがそんならと温泉の宿を作る。
その後、出来たその宿屋がめっぽう繁盛しだすのを確認すると
「我も我も」と名乗りを上げ次々に新たな宿が建ち始める。
その賑わいに乗じて都会から益々湯治客が押し寄せてくれば、
宿もますます出来て、それらの客のお腹を満たすために町に食堂ができ始める。
宿屋自身も自前で朝夕のまかないをして客を饗応するようになる。
町の外から人が訪れるから、泊まれる場所や、食事のできる店ができていくのだ。
そうすると今度は、繁盛する食堂や宿屋のまかないに食材を提供するための、魚屋、肉屋、八百屋、乾物屋、米屋、酒屋が以前にも増して店を構え始める。
宿屋の普請が続くので大工も足りなくなり職人が今日も町へ流れてくる。
宿屋が増えたから畳屋も商売繁盛し忙しくなる。
都会から趣味の好い上客が来る宿も出来て庭師もこの頃は忙しい。
こうして宿を支える商人や職人が温泉町の景気に乗じて流れ着き、この町に定住し町の人口は増えていく。
遊び心のある木地屋がこけしを挽き始め、
そのこけしが温泉客に気に入られ、おおいに売れ始めれば、
木地屋のカンナを作る鍛冶屋も繁盛する。
「宿の玄関に毎日綺麗な花を活けませんか」
花屋も宿屋へ足を運んで営業をし、生花が足りなくなれば近隣には花づくりに精を出すお百姓も現れる。
温泉町に都会の人たちが押し寄せて、よそからのお金が集まるようになると、郵便局や銀行も行員さんと共にやってくる。
こうして町の人口がまた増えて、その人たちも子供を育てる身だから、小学校が建ち、中学校が建ち、生徒数が増えれば、赴任してくる学校の先生たちのための下宿も出来る。
温泉町は湧き出る湯の恵みで発展していく。
「湯が枯れるようなことがあっては町の荒廃につながる」と、
湯の町の人たちは湯の恵みを大切に思い温泉神社をつくって神頼みも怠らない。
温泉町には小さな歓楽街もでき始める。
夜には酒に酔った温泉客がぞろぞろとそこを練り歩く。
暗がりでは子供には教育上良くない逢引もある。
見慣れた日常の裏側では男女の惚れたはれたや痴情のもつれもありするのだが、温泉町は、スキャンダラスには割に寛容な感じがする。だから子供たちも幼いうちから男女のことに精通するようになり固いことを言わない頼もしい大人に育っていく。
芸者さんの昼間のすっぴん顔を、買い物に出た先で不意に見かけた小学生は、お母さんとどこか違うしっとりとした女の風情を、驚きと照れくささの中で眺める。
そんな子供時代があるとすれば、それはなんともうらやましい思い出である。
温泉には、温泉→湯治という健康路線と、温泉→歓楽という福利厚生路線があるように思える。だが、なににせよ、温泉町が故郷であれば、子供時代の想い出が、自分の家や学校だけでなく、温泉町という風情に町ぐるみ包み込みこまれ、
生まれ故郷に温泉町という一体感をもたらしてくれるような気がする。
ぼくは、そんな温泉町の成り立ちと佇まいにあこがれを抱き、
そんな町が自分の生まれ故郷だったら、どんな子供時代の想い出があったろうと、わくわくとする。
それでも、都会に不景気が吹き荒れて、都会の人が温泉を目指してガヤガヤと訪れなくなれば、温泉町は往時の勢いを無くしてしまう。
湯治客が来てくれたから、そこに湯治客を迎え入れる町が出来たのに、迎え入れるはずの湯治客を失えば、温泉町は、町民がそこに留まれる理由のほとんどを失ってしまうことになる。
だが、どうして都会が不景気になったのかまでは、温泉町の人々の努力の与り知らないところであり、一生懸命自分の仕事を働くだけでは、上手くいかないことのあることを思い知らされることは、素朴に生きる生活者として途方に暮れることである。
都会の不況の原因は複雑で難し過ぎてよく分からない。
けれど温泉町には以前のように湯治客が来ない。
宿屋組合も商工会も手を打たねばと思うが、なにをどう手を打てばいいのか分からない。
世界的に有名なサーカス団を温泉町に呼んで都会のお客の興味を惹くイベントを考えたり、温泉資料館という立派な施設を作ったり、歌手を呼んだり、名物を作ったり。
温泉町は、生き残りを掛けて思いつく限りのイベントを仕掛けていく。
そうして数年、十数年、持ちこたえ、
また都会からお客が来なくなる。
これはひとつのたとえ話のようなものだけれど、
この先、この日本はどうなっていくのだろうと思うこともある。
この国で生活する人は、まだ豊かな暮らしをしているように見える。
その豊かさがどこからくるのか、どんな理由で今もあるのか、
その理由も、おそらく複雑すぎて、だれか優秀な人に聞いてもきっと分からないだろうと思う。
自分の努力の与り知らないところで、国の衰亡が始まる。
そうなら。
そんな時は、驚かず、焦らず、衰亡していくままにまかせればいいかなぁと思う。
そうして、何も手を打たない分、誰かに優しくしたり、だれかと夜更けまで話したりする方が良い。
衰亡した温泉町の家々の屋根は老朽化したままで雨漏りがするけれど。部屋の中に洗面器やバケツやらをいくつも置いて雨だれをペタンペタンと受ければいい。
ここは湯の町。
湧き出る温泉の湯を大事に守って、みんなで効能新たかな湯の恵みにふれる日を、おくれるだけおくると好いのだと思う。
ということで、気合も入らない日記でしょうが(^^)
本日も各自の持ち場で奮闘くださいませ!
解散。また来週。
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(15:53 嬉野)