2009年7月21日(火)

嬉野

2009年7月21日(火)

嬉野です。

明日は日食だそうで。
したが奥さん札幌はくもりさ。

それにこのところ天候不順で、
気温は20度を下回る日が続き夏という気がしない。

ようするに寒いんだよ。
五月の頃と同じさ。

去年ドラマを作った後で、実は思ったことがあるよ。
プロデューサーとは全体なんだろうということをさ。

そしてある時、ぼくは、ひとつのおとぎ話に想いが至ったよ。
それは「わらしべ長者」という話でね。

長者とは書いてあるが、この物語の主役は長者でもなんでもない、そればかりか何の取り柄も無いから職もなければ、住処もない。
いい年なのにそんな甲斐性なしだからいまだに女房もない。
しようがないからあてもなく歩いている。
それだけの男さ。

ところが、この男もよほど暮らしに困り果てていたのだろう、
ある晩、観音に祈願をした。
このまま暮らしが立たずば、オレは死ぬばかりだと。
観音よ、なんとか自分を救ってくれまいかと。

その夜、この男は夢を見る。
夢枕に清げなる人が立ち男に告げるのだよ。
明日の朝、おまえが最初に手にしたものを大切にするようにと。
そしてそれを持ち、西へ行くようにと。

翌朝、男は起き抜けに往来で転んだ。
転んだ男が起き上がる時、
その手の中にわらしべが一本握られていた。

最初に手にしたものを大切にしろという観音のお告げ。
それにしても、よりにもよってわらしべとは。

男は、どうして自分はこんなつまらないものしか手にする事ができぬ男なのだろうかと、おのれに寄り添うおのれの運命を嘆いたよ。

そうしてね、このわらしべを親指と人差し指でくるくるとつまみながら西へと歩いていった。

そのわらしべの先に不意に一匹のアブがとまった。

あてのない一人旅は退屈だったので、
男はこのアブにわらしべをくくりつけた。
アブは飛び去る事も出来ず、
わらしべの先でブンブンと羽を鳴らしている。

この光景が男にはちょいとおもしろかった。
空にかざして、ブンブン鳴るアブの羽音を聞きながら、
なんとか逃げ去ろうとがんばるアブの姿に飽きる事がなかった。

自分がすんなりおもしろがるものには、
案外と他人も興味を示すものでね、
そのアブが欲しいという子供が現れた。

見るとその子は牛車に乗っている。
身分のある家の子供だろうか。

気の好い男は、子供の従者にわらしべごとアブを渡した。

従者からアブを受け取ると子供は大層喜んで、
幸せそうな笑顔でおもしろそうにわらしべの先のアブを眺めた。
それを見て、男も、なんだか幸せな気持ちになっていた。

その男の手に、従者が瑞々しい蜜柑を握らせた。
男は、最初、その意味が分からなかったが、
従者はアブの礼だと言う。

去り行く牛車を見送りながら、
アブの礼に、こんな立派な蜜柑を三つもくれようとは、
金持ちとはずいぶん豪儀なものだと男はあきれたが、
次の瞬間、男は自分の手の中に残った三個の蜜柑の重みに奇妙なリアルを感じた。

わらしべが蜜柑三個になっていたのだよ。

男の脳裏に、もしやと、観音の導きという言葉がよぎった。
果たして、西へ向かう男の行く先に、喉の渇きを訴えて困窮する者が現れ、この者に蜜柑をやると、礼にと美しい反物を三反くれる。

この反物がやがて馬に変わり、
その馬が最後に家屋敷と田畑に変わる。

どうしてそう変わったかが気になる方は銘々で調べて欲しいが、
私が、言いたいことの範疇を越えているので、ここではそこまでの話はしない。

ただ、
どんなドラマを作るかという、
その思いつきは、
プロデューサーのものだということを、
私はぼんやりと思いついたという話だよ。

その思い付きには、大した才能は必要とはしない。
そう思って私は「わらしべ長者」の話を思い出したのさ。

わらしべの先にアブをくくりつけるように。
自分が、ピンと来た事を信じれば、
才能の部分は脚本家という作家が素晴らしい仕事をしてくれる。

だが、最初に手の中に何も無ければ、
いつまで経ってもその先はない。
何もないものは、どこへも動き出しはしない。

だから最初に手にしたものを大切にして、
つまり自分を無根拠に信じて、
その先にアブが止まるまであきらめない。
アブが止まった瞬間を見逃さず、
そのアブをわらしべの先にくくりつけて、
自分がおもしろいと思えるかどうか、
自分がおもしろいかもしれねぇと素直に思いさえすれば、
人という者は他人に話が出来るようになるもんだ。

そうして、話を聞いた作家がその気にさえなってくれれば。
そうすれば、物語はその後で作家が作り出してくれるのだよ。

おもしろい脚本が出来上がれば、
その役をやりたいと言ってくれるおもしろい役者と出会う。
その作家の本だったらやりたいというおもしろい演出家と出会う。

わらしべ長者の物語が示すように、
家屋敷や田畑が手に入る頃には、その最初にわらしべを拾ったことなど誰の記憶にもなく、口の端にのぼりもしないことなのだが、最初が無ければ結果もない。

なんの取り柄も無い男が拾ったそのわらしべが、
最後にはどれだけのものになるのか、
その行程を全部見ることが出来る。
それはプロデューサーだけが持てる醍醐味だと、
オレは思うよ。

人は出来る事をやればいい。
出来ない事は、他人の出来ることであったりするのだからさ。
そうやって、とにかく、
歩き出さねばならん時には、
背負う責任は単純に気軽にしていくと好い。

勝手な責任を感じて出来ない事まで背負うと、
本来出来るはずの事も出来なくなるのだからさ。

ということで奥さん。
この秋に撮影する2009年のHTBドラマも、
無事にわらしべの先にアブが止まり、
そのアブをわらしべにくくりつけて、
どんどんおもしろいことになり始めていると御思いください。

そのことの経過もね、
そしてさ、
このドラマが成功するか、失敗するのかも含めて、
今後、ここでドラマが出来るまで、
紹介していこうと思っているよ。

じゃ、今日はここまで。
奥さん、また明日。

きっとおいで。
解散だ。

DVDの討ち入りも続いておりますようで、
ありがたきこと限りなし!でございます。

どんどん!
藤村先生も鋭意編集続行中!

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(18:52 嬉野)