週が明けまして9月27日月曜日。今週も藤村でまいりましょう。

藤村

週が明けまして9月27日月曜日。今週も藤村でまいりましょう。

ドラマ「歓喜の歌」の撮影ネタをいくつか、思い出しながら。

あれは、吉本さんが車を降りて、もう一度車に駆け寄り、娘に涙ながらに「コーラスも大事」と訴えるシーン。大事なシーンです。

ところが、

ピリリ・・・ピリリ・・・

携帯を鳴らしたヤツがいる。ズボンにでも入っているのでしょう、くぐもった音ですが、確かに聞こえる。

ピリリ・・・ピリリ・・・

あまり大きな音ではないので、芝居はまだなんとなーく続いている。でも、スタッフの視線はすでに、

(おい誰だ!バカ野郎)

と周りを見渡して犯人捜しをしている。そして、私に向かって、

(監督、もうカットにした方がいいっすよ)

と目で合図してくる。

(そうか、残念だけどやっぱりカットだよな・・・)

私はあきらめて

「カット・・・もう1回いきましょう」

と言った。

そして続けて

「すいません」

とあやまった。

「うわっ!監督っすか!」

「すいません」

撮影中は携帯を切る。基本中の基本でありますよ。

今回の役者さんの中で、私のツボを刺激しまくったのが、事務長役の利重さん。

「大げさなことはしない。芝居は自然に。押さえて」

と、常にみなさんには言っていましたが、利重さんだけには、

「もっと不自然な動きで!とにかく手足を動かして!」

と、真逆のことを言っておりました。

この人が大げさに動くことによって、逆に主任の無表情さが際立つ。利重さんは大泉との対比の対象です。

とにかく無意味に手足をバタつかせて動いてもらった。そのたびに私が「そうそう!いいです!うはははは」と、えらく喜ぶもんだから、利重さんは大泉に聞いたらしい。

「どこがそんなにおもしろいんだい?監督すごく笑ってるけど」

「あーいう人なんです」

「ぼくだけ、ひとり浮いてないかい?」

利重さんは不思議であったらしいけれど、でも言われたら、「わかりました」とやってくれました。

事務所で主任を怒るシーン。私が芝居の段取りを付けます。

「利重さん、今、そうやって座ってるでしょう」

「はい」

「どっかのタイミングで机に立ち上がりましょうか」

「えっ・・・」

「勢いよくダンッ!って」

「えっ、つ・・・つくえの上にですか・・・」

「あ、机って言った?違う違う!イスから立ち上がりましょう」

「そうですよね、イスですよね。よかった。机の上にいきなり登らされるのかと思った」

「んなことしたらおかしいでしょ」

「そうですよね、よかった」

もうこの人なら机の上にも登らせかねないと思ったんでしょうね。真剣な顔でほっとしていました。

主任が車の前で大の字になって「ここを動かないぞ!」と言って、轢かれそうになるシーン。

ある種のスタントですよね。寝転ぶ大泉の顔、ギリギリで車が止まる。

あれ、田中さんが本当に運転してるんですよ。

真上から撮ってるから、田中さんの顔は見えません。だから別の人がやってもいいんです。いや、我々はスタッフがやるもんだと当然思ってた。

でもなぜか田中さんは、まったく運転席を降りる気配がなく、

「ちょっと位置だけちゃんと見ておきましょう」

などと、もうハナッからやる気満々。

そうなると、一番怖いのは大泉さんです。

「ちょっとちょっと、なんで田中さんがやるの。おかしいでしょ。降りなさいよ」

「あなたの命はあたしが預かったから」

「いやいや降りなさいって。おい!早く田中裕子を降ろせ!」

考えました。あのシーンで大事なのは、「うわっ!」って驚き方が、しらじらしくないこと。もう車が来るってのは視聴者にはわかってんだから、そこでしらじらしく驚くと、見てるほうはしらけてしまう。

本気の驚き方が大事。

となると、田中さんに行ってもらうのが一番。それもテストなしで本番一発。

「じゃ本番いきますよー」

「おい!ちょっと待てって!」

あのシーンは、実は本気のいいシーンなんです。

最後に、美術班の話。

「ひげ祭り」なんかの細かい張り紙から、テーブルの上のおかず、そして「リフォームMIYAMOTO」の全面改装まで、すべてを作り上げる美術班。

ある日の早朝、彼らは小樽市民会館の前で作業をしておりました。

すると朝の散歩をしてたおじさんが、慌てて駆け寄ってきて大声で叫んだそうです。

「おーい!字が違うぞーッ!大じゃなくて小だーッ!間違ってるぞーッ!」

彼らは小樽市民会館の入口に、でっかく「大樽市民会館」と貼り付けていたんですね。

おっさんも思わず叫ぶほどいい出来の看板であったと、そういうことであります。

よし、ではまた明日。

一時解散!

(21:02
藤村)